short story

□幸せの記憶
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「まったく…今何時だと思っているのだ。


マダム・ポンフリーも人使いが荒いものだ。


スノウも断ればいいものを…人が良すぎるのもいいが、身体を壊したら一体誰が看病すると思っておるのだ…」


ブツブツと呪いの呪文のように聞こえる悪態をつきながら、セブルス・スネイプ教授は地下牢教室から出ると、明かりが落された薄暗い壮大な玄関ホールを通り抜け、杖灯りを掲げ、マントを翻しながら颯爽と大階段を上った。


あと一時間もすれば、今日という日が終わる時間。


うら若い女性が一人で出歩くのは危険だと、セブルスは常日頃からスノウに対して口煩く言い続けている。


まして、彼女は男の身勝手な欲望の対象になり、何度も貞操の危機の憂き目に合っている。悲しいかな、その男の中に自分の古くからの知り合いもいるのだが…


そして、セブルスはその忌まわしい場面を彼女の記憶の中で二度も目撃していた。


学校といえど油断はできない。


その二度の内の一方はこのホグワーツの中で起きた出来事なのだから…



二階の医務室まであともう少しという所だった。


背後に人の気配を感じてセブルスはさっと振り返った。


黒い影のようなものが確かに横切ったように見えた。


目的の医務室はすぐ目の前だった。


扉のほんの少しの隙間から細く光が漏れて廊下に伸びている。


スノウはまだそこで作業をしているのだろう。


そこにいるのなら安心だ、とセブルスは胸を撫でおろすと、先ほどの気配の方に再び目を向けた。


杖灯りを消し、そっと足音を立てずに進みながら、生徒だったらどんな罰則を受けさせようかと思案する。


「闇払いの警備はあるものの、あれほど注意しているのに、まだわからんのか…」


セブルスは眉間の皺を深くする。今年度から、闇の台頭が著しい為にホグワーツに取られた警戒措置の一つが闇払いによる警護だった。


そんなものは本当の危機がやってきた時に大した効果は無い。常日頃から闇と対峙してきたセブルスにはそれがよくわかっていた。


セブルスは医務室の扉を開けずに踵を返して大階段のほうに向かった。


そして遥か頭上まで伸びる階段を見上げた。


「!?」


四階の辺りの暗闇でまた何か動いた!


黒いマントのようなものを引きづりながら、図書室の方角に吸い込まれるように消えた何かを確かに見たセブルスは、階段を大股で登り始めた。



邪悪な気配はないものの、今のこの不穏な時期だ。何があってもおかしくはない。


生徒とは違う、別のものが紛れ込んだのか?!


「闇払いはいったい何をやっているのだ!」


正体を暴いて捕まえたら、闇払いに突き出し、何の為の警備だと問い詰めてやろう。


セブルスは当初の目的を離れ、謎の生物の捕獲に向かってしまった。




  
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