short story
□雪の繭
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深夜の嵐が嘘のように収まり、雲間から僅かな光が差し込んで、白い墓に積もった雪がキラキラ輝いていた。
辺り一面、雪に包まれた静かな湖の畔に、威厳のある後ろ姿を見つけたミネルバは微笑んだ。
「来てくれたのですね、キングズリー」
ミネルバは白い台座が輝く墓の前に佇んでいる人物の背中に話しかけた。
「ええ。新年の挨拶をしたかったので…
その後で校長室にも伺うつもりでした」
暫定魔法大臣に就任し、忙しいはずのキングズリー・シャックルボルトが振り返り、穏やかに微笑んだ。
アルバス・ダンブルドアの墓もヴォルデモートによって破壊されたが、修復が始まると真っ先に直され、元の姿に戻った。
墓の前に立つと自然と顔が綻び、安心することができた。
ダンブルドアが殺されたと思い込んでいた頃、こんな風には笑えなかった。
「二人はいったいどんな会話をしてきたのでしょうね…」
ミネルバは白い墓の隣にある小さな雪の山に手を伸ばした。キングズリーも長身を屈めてミネルバを倣った。
まるで雪の繭で護られているかのようにそれはすっぽりと雪に覆われていた。
白い墓とは対照的な黒い墓石が雪から覗いた。
思わず手を止めたミネルバの代わりに、キングズリーが膝をつき、素手で雪を掻き分け続けてくれた。
現れた小さく簡素な黒い墓は白い墓の隣に並ぶととても控えめだ。
しかし、そこに眠る人のように鋭い光を放っていて、存在感は変わらないほどだ。
キングズリーは墓に刻まれた文字を感慨深げにゆっくりと指でなぞる。
Severus snepe
1960-1998
The most bravest man〜
「貴方が考えてくれたその墓碑銘は…
セブルスにぴったりの言葉です」
跪いているキングズリーは暫く考えていたが、ミネルバを見上げて、やがて笑った。
「これは、『生き残った男の子』がセブルスに贈った言葉です。
私の言葉ではありません」
「ハリーが…?」
ミネルバが驚いて思わず口に手を当てた。
「ええ、そうです。
ハリーは誰にも言わないで欲しいと言っていたので、黙っていましたが…
彼も気持ちの整理がすめば、ここにくるでしょう。
皆、そう思っています。私もその内の一人でした。
もう…半年以上経ったというのに、心の痛みは増すばかりですが、もうそろそろ前を見なければ、私は彼に叱られてしまう」
キングズリーは大臣から一人の男に戻り、目頭を押さえた。多くを語らなかった彼と、平和になった今、魔法界の行く末について、じっくり話をしてみたかった。
「実は私もそう思って新年を迎えました。
でも、セブルスの墓が賑わったら、彼は煩くて眠れないと言いそうですわね」
「確かにそうですね」
二人はクスクス笑った。
「みんな…それぞれの道を模作した一年でした。
ここに残った者も、去った者も、セブルスに恥じぬ生き方を考えた末の結果ですから、私は校長として、彼らの考えを受け入れてきましたが…
やはり…寂しいものですね…」
ケンタウルスのフィレンツェも、群れに戻ることを許された。
彼が使用していた森のような教室は一階にあった為、特に酷い被害を受けたが、使う予定がないのでそのままになっている。
彼を目の敵にしていたシビルは、自分の預言が多くの人の人生を左右したことを知り、衝撃を受けた。
彼女は授業をする自信がないと暫く休職していたが、生徒たちが徐々に戻り始めると、職務を遂行することを決意したようだ。
「シビルの授業は正直、あまり感心できるものではありませんでしたが、彼女も変わり始めています。
ホグワーツの再建にも尽力してくれましたし…居なくなってしまったら、寂しいですからね」
ミネルバが彼女らしい口調で言った。
「お話し中ですんませんが…
校長先生、ケンタウルスたちがきちょります。
中に入れてもいいでしょうか?」
気がつくとハグリッドが白い花を携えて遠慮がちに立っていた。
「ええ、勿論ですわ。案内してください」
森の端にいくつものケンタウルスの影が見えた。
いつも森の奥にいた彼らが行動を起こすことも驚いた変化に一つだった。
キングズリーが魔法生物に対する法案を改正しようと思ったのも、彼らの変化を快く思ったからだった。
「私たちは城に戻りましょう」
ミネルバとキングズリーはケンタウルスに会釈し、まだ修復途中の城に入っていった。