長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第2章』 6話 - 狂れた傀儡達【後編】 -
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『第2章』 6話 - 狂れた傀儡達【後編】 -





















「――――ぁあああッ!っ」





それは薄暗い空間に響く悲鳴。

身体への侵傷は予想以上の物であった。








『梨花!』


ハルカがはっと悲鳴のような声を上げた。

あまりの痛みに、思わず梨花の足が止まる。





「っっ、、くそぉ!!!」


だが飛んでいきそうだった理性は、なんとかつなぎ止める事ができた。

すぐにでも襲ってきそうな死体達を剣で払いのける。

そしてどうにか剣を向け、牽制する。




死体達は手にした武器を揺らしながら、梨花の周囲を取り囲み始めた。

歯を食いしばりながら肩口を見ると、

滑らかな流線型のスローイングナイフが、白い肌を突き破り、

ぬらぬらとした赤黒い血に染まりながら、突き出していた。




「あはははははははは! 

はは、あははは、ははははははははははははは!!!!」

狂喜染みたな笑い声を上げるspringの顔は、いつの間にか笑い顔のペルソナが張り付いている。



彼女は死体達に梨花達を追わせて、舞い踊るようにくるくると回っている。

照明の光で、金糸のような髪がきらきらと輝いていた。

彼女を映していた視界が霞みはじめる。

失血と、走り回ったせいで、頭に酸素が回っていない。

痛みで意識が朦朧としだす。熱の塊が、荒い呼吸となって口から飛び出していく。




「・・・・は、ハルカ」

思ったよりもずっと弱々しい声だった。

拳を額に当てて意識をはっきりさせようとするが、視界はにじんだままだった。

奥歯を噛みしめる。

ハルカもいつもとは違っていた。

いつもの無表情顔に隠しきれない焦りをにじませて、

『位相電位を切り替えています、すぐに痛みを抑制するための――

梨花っ!!意識をしっかり保って!』






そんな顔、するんだ。。






『梨花・・!

やむおえません。

詳しい説明は後にしますが、今からプログラムに干渉し

痛覚遮断と一時的に剣の火力の向上を図ります

しかしこれは・・』



「・・・。わかった。大丈夫だから。

お願い。」


ハルカの言葉に目をやった梨花は、痛みと死の恐怖に染まりながらも、

腹をくくった表情をしていた。

ハルカはそれにはっとして、それから、力強く頷いた。












今にも前のめりに倒れ込みそうな体を、持ち上げる。

取り落としそうになる剣を、もう一度握り直す。

ぎちぎちと力をこめた拳に、肩口からわき水のように流れ出す血がしたたった。

死体達は手負いの獲物に迫る狼の群れのごとく、じりじりと迫る。







『梨花!!リメイントプログラムをアップロードしました。

また痛覚等負神経機能を一時的に緩和しています!

少しの間、どうかこれで持ちこたえてください!!』


ハルカの声と共に梨花の身体を金色の薄い光が包み始めた。




これは・・。




なんか少し身体軽い・・。

この光のおかげかな。。


っ。。

でも痛みは相変わらずか。




そもそもなんでこんなことしてんだろ。

平和に暮らしてただけなのに。。




ここ最近はホント毎日が夢の中みたいで、でもこれは紛れもない現実で。

そんなことがまだ自分にはよくわからなくて、受け入れきれなくて。。




でもさ・・、いまわかってることもある。

目の前のあの娘(spring)。



あの娘も何かに苦しんでいるということ。

あの時のゆりあみたいに。あの娘も多分この状況に苦しんでるんだ。

そう自分では止められない衝動に。





正義の味方を気取る気なんてさらさらない。

ただ、私もこんなところで死にたくないし、

あの娘のことも死なせたくもない。



私にはまだ、、知れてないことが山ほどあるんだから・・



そう。だから・・・






やってやるッ!!



 
薄暗い空間に赤い光が解き放たれた。

その瞬間静まりかけていた炎が剣から吹き出し、彼女の髪色と瞳が赤く煌めいた。

剣を身構えた梨花は腹の底からそう叫んだ。今はハルカに賭けるしかない――――



何をしてもいい、最後の瞬間まで立ち続けるのだ。

彼女の時間を、稼ぐ。



梨花の背後で、ハルカは必死に無数のタスクウィンドウの群れを操っていた。




獣たちのの咆吼が上がる。  



くる・・!!


そう身構えた瞬間に一番最初に襲いかかってきたのは、背後からだった。

背中に飛びかかってきた死体を、振り向きざまに、斬る――

血しぶきと共に枯れ木みたいに死体の首がへし折れ、横薙ぎに吹き飛ぶ。

今度はその背中を、ククリナイフを振りかぶった別の死体に襲われる。

持ち前の反応速度で素早く、

身体を反転させると、燃え上がる剣でナイフをもった腕をはねあげた―――。










それは至極単純だった。



できるだけ長い時間生きるため。

無駄な雑念をすて梨花ただそのために無我夢中で剣をふるった。


四方八方から迫る、死体の群れがその中心で闘う彼女の前に切り伏せられる光景を、

ハルカは横目でちらりとみると、一瞬その姿にあるはずのない心を奪われたような気がした。

煌びやかで、温かみのあるその炎を纏う剣士は、激しさの中に美しさを兼ね備えたように。

まるで、舞を踊るかのようであった――。







梨花・・。


・・!!




はっとし、それどころではないと再び手を動かす中でハルカは、

イジェクターの存在に――、

否、桜汽 梨花という人間に対して、

微かに自身の中に、使命とは別の。

何かが湧き上がっていることにまだ気づいてはいなかった。
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