長編夢小説 『 Unusual world 』
□『第2章』 4話 - 鮮血の城 -
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『第2章』 4話 - 鮮血の城 -
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・・・通信中・・。
接続完了。。
【ラビィング・オブ・キャッスル】
<概要>
『 全世界1200万人以上のspringファンの皆様、お待たせしました!
遂に世界的ネットアイドル、springの脳に接続する時が来たのです!
彼女の脳に創造された世界、
ここラビィング・オブ・キャッスルは危険な罠が張り巡らされた危険なお城!
悪い魔法使いにこの城に閉じ込められたspringは、あなたの助けを待ちわびています。
彼女の下へたどり着けるプレイヤーはなんと先着10名のみ!
選ばれし10人の王子達だけが限定コンサートへのチケットを手に入れる事が出来るのです。
さぁ。あなたのspringへの想いは、張り巡らされた数々の罠を退け、見事彼女のもとに届くのか!?』
<免責事項>
○このゲームは有料プレイに指定されています(管理・sebiy グループ スタジオ)
*2080円/1Play
○ゲーム上における演出で受ける指定感覚受容は、
「セルネットにおける規定」782条の二項、三項、四項に指定された内容に限定されています。
これを超えたフィードバックにおいて生じた障害、
後遺症などの損害はお客様自身の責任となり、本社の免責事項となります。
○本社は本社の意志の下、このゲームの配信停止を自由に行う権利を有します。
○著しい危険を感じた場合、
必ずゲームマスターへ通達した上、すぐさま利用を停止してくださいますようお願いします。
万が一、ホスト元がネバーホリック状態に陥った場合、
ホスト利用者のログアウトが困難になる場合があります。
それではspringの世界観が反映されたファンタジーワールドを、存分にお楽しみください。
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「ここは・・。うっ・・。」
辿り着いた場所。
彼女が踏みしめたタイル張りの床は、一面血の海だった。
ゲームワールドに降り立った途端、
むせかえるような奇妙な匂いがマスク越しに漂ってきて、
思わずこみ上げた吐き気に口元を押さえた。
辺りを見渡すと、
そこは茶目っ気たっぷにおどろおどろしく装飾された、洋風のロビーだった。
「ッ――。酷い・・。」
色とりどりのポップなキャンディーや、
ハロウィンに見るようなジャックオーランタン、
きらびやかなシャンデリアに、不安定な光を揺らすキャンドルスタンド。
ゴシック調の世界観。
いかにも女の子が好きそうなデザインだった。
そこに、ごろごろと死体が転がっている。
かわいらしいデフォルメされたキャラクターにまみれて血を流すその姿は、
現実の生々しい人間の姿そのもので、
空想の世界に突然ぶちまけられた現実(リアル)のようだった。
死体がはき出す血はロビーを一面黒々と染め、梨花の足下まで濡らしている。
先ほどから鼻腔にへばりつくこの奇妙な匂いは、血の臭いだったのだ。息が詰まる。
『ネバーホリッカーによる改変ですね』
ハルカがふわりと姿を現した。
彼女は青くひらひらとした制服のような姿を可憐に纏っていた。
首には黒のストールと思しきものも身に着けており、
そして幻想世界仕様であろう、
あのコバルトブルーの髪をなびかせながらこんな言葉を口にした。
ハルカの腕は、彼女が機械であることを再認識させるかのように変形し、
細身の彼女には似つかわしくない青い重火器に変わっていた。
梨花は、その姿に思わず、
何か苦言を呈しようと思ったが、死臭のすさまじさに口を開くのがためらわれた。
『1プレイ2080円で複数回挑戦して遊ぶタイプの、
アイドルファンのためのゲームだったようです。
城の頂上までたどり着けば、
そこでお姫様に扮したアイドルと出会ってゲームクリアという形式のようですが・・』
そこまでいうとハルカは、至極冷静な顔で転がっている死体に目を落とす。
『こういった過剰な演出は本来意図されたものではありません。
ホスト元のネバーホリッカーにより、改変されたものです。
現在サーバーのログイン表記が不可となっており、新たなログイン者はないでしょうが、
ここまで残虐となると、
この方たちの、精神的ダメージは大きく、障害を発症するおそれも――』
「あぁー!、もう、何言ってるのかわかんないよ!?」
梨花はマスクの下で目を白黒させてから、いらだたしげにこういった。
「大体、無理やりこんなとこに――――」
『無理矢理ではありません。
そのマスクをかぶった時、あなたは排出者(イジェクター)となることに了解したはずです』
む・・・と梨花は口ごもった。
確かに、言われてみれば、そんな記憶もあった。
だがあの時はあの時だ。選択の余地はなかったし、血がのぼっていた。
ゆりあを助けなければと必死だったのだ。
「それに、なんで私が命を懸けてまで見ず知らずの他人を助けなきゃならないの。
こんなの・・。その人たちの心の問題じゃん・・」
ぶちぶちと文句を吐き連ねる梨花の前に、
音もなくハルカが回り込んできた。
コバルトブルーの透けるような色が、梨花の目を射貫く。
まるで胸の奥にまでその視線が入ってくるように感じて、
梨花は思わず口をへの字にして黙り込んだ。
『・・他の誰にもできるなら、
誰かが手をさしのべるのを期待して、じっと待てばいいでしょう。
ですが、外側中毒は違います。
どんなに願っても、どんな犠牲を払っても、他の誰にも彼らを救う事はできない。
それにこれは、発症者個人だけの問題ではないのです。
この人たちのように、何の罪もない人たちさえも、中毒者により、被害をこうむる。
梨花。あなたは、それを防ぐことが力を持っているのですよ』
不意に、左手に、ひんやりとした心地よい冷たさが宿った。
ハルカが身を寄せて、その細い指で梨花の手をとったのだ。
『あなたにしか救えない。だから、救わなくてはいけない。
それがあなたの権利であり義務なんです』
「・・・。」
黙りこくった梨花は、
文句の一つでも言いたげな不満げな表情で彼女を見つめ返した。
ハルカは少しも目を逸らすことなく、
その透き通った瞳とまっすぐさで梨花の瞳を見つめ続ける。
真剣な話に気を取られていたが、
しばらくすると、二人の距離が目と鼻の先になっていたことに気づき、
梨花は恥ずかしそうに表情を歪め、視線を横の方へ逸らした。
まったく、人工知能(AI)というのは厄介だ。
機械だから妥協する事を知らないし、にらみ合っても根負けしたりしない。
争うだけ、無駄だ、そう。
これは――――