長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第2章』 3話 - 軽蔑していた愛情 -
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「・・・・ッ・・」


ビルを出て、整然と整理されたロータリーを抜けて繁華街を歩いていると、酷い無気力感に襲われた。

わけのわからない感情とそれに比例するかのように流れる涙が彼女白い頬を赤くしていた。

ハルカはいつからか、妖精サイズから人型に戻り、

そんな彼女の様子を気にするかのように後ろを歩いていた。











「・・。あいつ、絶対何か知ってるんだ。

知ってるのに隠してるんだ・・。」



しばらくして、気持ちが落ち着くと、
梨花は立ち止りながらこんなことを呟いていた。


『・・・。・・よかったですね』

そんな時、再びワンピース姿になって後ろを歩いていたハルカが、

横に歩み出ながらこんなことを言った。

その言葉を聞き、梨花は低い声で言う。



「何が良いのさ・・」


『妹さんです。元気になったみたいで』


言われて、初めて思い出した。ゆりあの経過は良好だと父は言っていた。

気持ちは沈んでいるが、その朗報は素直に喜べると思う。



はっとして梨花はハルカに目を向ける。

隣を歩く彼女は、栗色の髪を揺らしながら、前を見据えて歩いている。

まさか、と思った。

まさか、この娘、私を励まそうとした・・?





「・・・・」

梨花はそう思うと、

一息はいて、怒りの熱をなんとか押さえ込んだ。




「そうね・・、うん、よかった。」


そう応えると、ハルカは金色に輝く瞳を向け、かすかに微笑んで言った。



『イジェクターに助けられたの、喜んでくれたんですね』



「あー、・・・。うん」

・・この娘も笑ったりするんだ。

と笑顔に不意にドキッとしながら。

その言葉になんと応えたものかわからず、

梨花は頬を赤くし黙り込んだ。




しかし返事は必要とされていないみたいだった。

それに嬉しそうに目を光らせて笑うハルカの姿に毒気を抜かれてしまった。

ぼんやりと、空に眼を向けて思う。


・・・きっとゆりあのお母さんも喜んでいるだろうなと――。




『梨花、顔が赤いですよ。どうしました?』


「っ・・。うるさいっ」


『・・?』


その後しばらく話しかけても、

何故か恥ずかしそうに、顔を背ける梨花の様子を、

ハルカは不思議そうに眺めていた。











「桜汽、梨花さん!!」

途中歩いている時に、不意にそんな声がかけられた。

立ち止まって声の方を見ると、妙に体格の小さい、

リボンをつけたの男、いや女が立っていた。






その人はうさんくさい笑みを浮かべて、

これ見よがしに手にした手のひら大のカメラで突然フラッシュをたく。

それに目を細めて顔を覆った梨花は、思わず「ちょっと!」と怒鳴った。





「おや? 失礼しましタ。

最近の子はこんな旧式のカメラを見ると喜んで撮って撮ってとせがむものデスから、

ついそういう気分でシャッターを切ってしまいまシタ」

どこか、片言のような独特のしゃべりかたをするその女性はこんなことを言ってわらっている。




梨花がじっと睨付けると、やっと相手をいらだたせたことに気づいたのか、

苦笑いを浮かべながらすいませんと頭を下げてきた。

女はよれよれのスーツに身を包み、シャツのボタンもまともに閉めていない。

これ見よがしにいかついレトロカメラを手にしている。



「どうゆうつもり?」


「いや〜、そんな睨まないでくだサイヨ。

街中をこんな美人姉妹が歩いていたら、そりゃ撮っちゃいますッテ」


「美人・・?・・姉妹?」

梨花はその人物の言葉に顔をしかめる。

この小さなカメラマンは何をいっているんだろうか?と。





「あれ、お二人さんは姉妹じゃないんですカ?顔もそっくりですし、

どう見ても姉妹かと思ったんッスけど」


「・・この娘と私が似てる?」


「ええ、髪型は違いますが、どっからどう見ても瓜二つッスよ」


カメラマンに、そう言われ、きょとんとしているハルカの顔を見る。

確かに以前から、顔のつくりはどこか似ている気もしていたが、

人に言われることもなかったため、あまり気にしてはいなかったことだ――。




「あの、お二人は姉妹じゃないとなるとどういったご関係で・・?」


『私は、人工「ハルカ、ストップ!言わなくていいから」・・・。はい』


危うく自身がAIだと暴露しそうになっているハルカにびっくりし、思わず口をふさいだ。

しかし、どういいわけしたものか・・。

まぁなんでもいいか、とりあえずこの場を切り抜けよう・・。




「・・。あー。従妹なんですよ」


「あー、珍しいですネ、そっくりですヨ」




あいにく小さなカメラマンは、

頭も弱いようで、疑いもせずに梨花の言葉を鵜呑みにしてくれたようだ。

情報社会化が進む中でも、オフィス街にこのような野人――。

・・いやアナログな人間がいることには些か驚いたが。







「・・・。てか誰ですか、あなたは。」


「あー、申し遅れましタ。

私、フリーライターっていう不安定職業をやっていてね。

私は高橋 みなみと言います。

友人は私の事をたかみなと呼んでいまスんで、

どちらでも好きに呼んでくださいっ」
 


突然まくし立てる女に、梨花は鼻白む。何言ってるんだ、この人は・・。





「あぁ、そんな顔も素敵ですね。どうですかもう一・・。・・いや、なんでもないっす」


何やら困り顔のハルカと、睨みを利かせる梨花姿に、

おっさんのように気持ち悪く興奮したたかみなさんは、

こんなセリフを言いかけたところで殺気のようなものを感じおとなしく口を閉じた。







しかし、閉じた口は、

再び思ったことを頭にとどめておくことができないのか開閉した。




「いやぁ、知らないっスか、ミナミ・タカハシって。

これでも昔はワールドファイトクラブってゲームでチャンピオンやってたんスよ。

ま、結局ネバーホリックにかかってやめてしまいましたけどね。

この間の彼女みたいに、『救済者』にイジェクトされたんス」




イジェクト、と言われて梨花は目を細めた。

その言葉に一気に警戒心が芽生え、無視してさっさと歩き出す。



ハルカも梨花と、記者――

たかみな?――を見比べてから、梨花の後ろに続き、歩き出した。




「まぁまぁ、そう急がずに!」

たかみなはそんなことを言いながら、ハルカと梨花の間に割り込んできて、


ハルカはそのことにむっとわずかに表情を歪めて目をぎらぎらと輝かせた。

「すいません、私たちいそいでるんで」



「なに、少し時間をいただくだけデスって。

こう見えてもセルネットで連載記事書いてるんッスよ。




『ネットの闇、ネバーランドのサーバーを追え!』

ってこういう具合でね、知ってるでしょ、この噂」



セルネット。

以前はネットと呼ばれていた存在は、

今や小さなコミューンが無数に点在する細胞網(セルネット)という認識へ変わった。




もっとも、ネットは梨花には縁遠い存在で、

情報社会の授業で見聞きした程度の知識しかない。



「サーバー? 知らないし。もう、どっかいってよ」



「知らない? それって、全く知らないって事
っデスか?
 
驚きましタね、今時そんな子がいるなんて」

馬鹿にされたのだろうか、梨花はむっとする。



そしてたかみなは、それじゃあっと、今度は人差し指を立ててみせる。



「ネバーランドの創成期からある都市伝説の一つッスよ。

ネバーランドの中枢に当たる、

全世界二十四億人のプレイヤーデータを処理する情報処理機器(サーバー)。

その膨大な情報量を維持するためには、

試算するに、広大な敷地と施設が必要になるはずデス。

それこそ、この国の国土全てを覆ってしまうくらいのネ」




「・・・いこ」


『・・。はい』


ハルカの手をとり、無視して歩き出した

梨花に、たかみな声を張っては食い下がる。





「だがあなたも知っての通り、

そんな施設はどこにも存在しないんデスよ!

でも現にネバーランドは運営されている・・。

なぜだ?どうやってこれだけの情報を納め、処理している?

一体誰が、それだけの施設を管理し、維持できるって言うんデスか?」





「・・・ちょっと、そういう質問なら」

梨花は不機嫌につぶやいた。





「あそこに行って聞いてよ」彼女が指さしたのは、V-tecLife社だった。

そびえ立つその帝国の尖塔をまぶしそうに見つめて、たかみなは笑う。




「無理デスよ。V-tecLife社は40年前のアジア大戦で活躍した民間軍事会社(PMC)――――

『ミコト・セキュリティ』社に出自がありましテね、

軍関係だけあって超秘密主義で有名なんデスよ。

あまり探りすぎると命をなくすとか・・

ま、半分冗談だと思いマスけど」








「あんた・・いい加減に・・ッ!?」


何度追い払っても意気揚々と現れ、

語る高橋の姿に、梨花もそろそろ怒りを覚えてきた。

抗議しようと、声を発しようとしたその時、唐突に、ハルカが梨花の手を取った。

ぐいと脇道に引き寄せられ、何事かと目を向ける。





『梨花。ネバーホリックです』
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