長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第2章』 1話 - 奇妙な同居人 -
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『第2章』 1話 - 奇妙な同居人 -






















後に聞いた話によると、

あの時、火焔が剣から湧き上がったのは、元々剣に備わっていた機能に加えて、

おそらく、あのタイミングで私の身体と移植されたplay fan48のデータ、

インストールした祖父の経験の3つが適合したということらしかった。








『その炎は気持ちの表れ、本人の意思の強さに比例して大きくなります。

しかし、その分使用後の身体に大きな精神的負担を伴うこともありますので、

リミッターがついているのですよ』





正直、なんだそれは?と思った私に対し、

彼女は当然のようにこういったが、私にはいまいち納得がいかなかった。

そんな漫画の中での、極限精神論のような力を自分が発揮したと考えると、

ますます信用しがたい話だ。





『そうゆうものなのです、気持ちとは時に不可解で、非常識なもの。

しかし、一度タイミングさえつかめば簡単だと。

先代もこういっていました。他に納得がいかないのであれば、

火が燃える仕組みから詳しく、説明します。

まず火とは――』


と、これ以上話を伸ばすと彼女の化学染みた長話が始まると思い、私も「わ、わかりました」

と話を区切り、それ以上は聞こうとしなかった。










全てが一変したのに、何も変わらなかった一週間が過ぎた。





あの後――――

外側の世界(ネバーランド)でのあの電気ショックみたいな体験を終えて目を覚ますと、

梨花はゆりあと折り重なるように倒れていた。

彼女がぼんやりと意識を取り戻したのを確認すると、

憔悴しきった彼女を慌てて病院に運んだ。



極度の脱水症状に飢餓状態、

睡眠不足や便秘と重軽さまざまな症状が同時に彼女を襲っていたが、

一度Play fun!48を破壊し、量子通信(ネットワーク)から切断すれば、

しばらく入院するだけで回復するだろうと医者は言っていた。

私の後にすぐに駆け付けた彼女の母親は、医者の話を聞いた後、

「よかった・・。ほんとによかった」

と病室で目を開かずに寝ている彼女手を握り、大粒の涙を流し、

安堵したようにその場にへたれこんだ。

そして、すぐに私の手をとると、涙ながらに

「梨花ちゃん。ゆりあのことホントにありがとう」と、何度も私に頭を下げた。



不思議な心境だった。

人からこんな風に感謝をされたのはいついらいだったかな・・。

そんな想いが頭の中を巡っていた記憶があたらしかった。




実際、義妹が安らかに寝息を立てているのを病室で見つめていると、

全ては夢のような出来事のように思えた。

一週間たった今も、その思いは消えていない。

強烈な夢を見ていただけのような気がする。

あの時の事を思い出そうとすると、蘇る記憶は現実よりあまりに強烈で、

だけどまるで現実感がない。






大歓声にビートを刻むBGM、

冗談みたいに艶めかしくて強靱で、悪魔みたいな姿のゆりあに――――。


そして蘇る、動かないはずの手足の感覚。

梨花がぎゅっと手を握ると、今でもその感覚が鮮明に思い出せる。

はねられた腕は何ともなく、今にも左手は動き出しそうで、

左足は感覚がみなぎってきそうで――

・・だが、いざ動かそうとすると、感覚はないし、動かし方もわからないのだ。




・・・この足が、動いてた・・。


左の義肢に手でそっと触れ、握りしめた手を、ゆっくりとほどく。

右手には、剣の感覚が今も残り、

思わず何も起きないとわかっていても、上空に手をかざしてみてしまうのだ。




・・・あの時、自身の世界。

私の世界は、輝いていた。



・・身体中をうちつけられ、頭からは血を流し、壮絶な痛みが全身を襲った――

息をするのも苦しく、視界の霞む中で、動かないとはいえ、片腕をはねられた。

そして初めて、剣を握り、義妹姿をした人を切り、殴り、最後には首をはねた。



これもハルカの言っていた、先代の経験のインストールのおかげなのだろうか・・。

そんな壮絶で免疫のないものなら、普通は、発狂しそうな体験をしたのに・・。

私は、あの時、今まででもっとも『生きている』ということを実感したのだ。







それまで、現実の世界では誰の目にも触れず、陰の世界に閉じこもり・・。

そして昼の世界への憧れを認めず、刻一刻と腐りかけ、

生きながらに死んでいるような生活をしていたていた自分自身。

そんな自分が、人の役に立っているのだと、身体を動かし、

『あたりまえ』、否それ以上に動くことができていたのだと――――。



そんなことを思い、顔を上げる。

視線を、遠い町並みに投げやった。

一週間前、世界が一変するみたいな経験をしたというのに、

二階のベランダから見えるこの街の風景は何も変わらない。

結局、現実は何一つ、変わっていない。





『梨花。こんなところにいたんですか?』


「・・・ハルカ。」


『いつも見てるんですか、この景色。

こんなに』



「・・・うん」



ただ一つ、彼女をのぞいて。



     
       ・



       ・



       ・











一階に下りて、台所に向かうと、ハルカはとんとんと階段を鳴らしながらついてきた。

彼女はなぜか学生服に身を包んでいる。

どこで手にいれたのか、ほとんど黒に近い、

私が以前通っていた学園のものにそっくりなそれを纏うその姿は、

どこからどう見ても一般的な女子高生である。

本人もどこか楽しげだ。

異世界でコバルトブルーに染まっていた髪の毛は栗色に戻り、

歩くたびに透き通ったように綺麗な髪がさらさらと揺れている。




そういえば、ゆりあを連れて行った先の病室で再会した時には、

これまたどこで手に入れたのかと思わせるような白衣に身を包んでいた。


どうやら彼女はちょっとズレたファッションセンスの持ち主なのか、

はたまたコスプレが好きなのか、あるいはその両方なのか・・。

とにかく、そういう趣味か"機能"があるようだった。


まぁ着ている姿に違和感はなく、私が言うのもあれだが似合ってはいるし・・、

それに本人も満足なら問題はないのだろう。

















『ご家族、いないんですね』


ハルカは、家の中を見回した後、

なにやら不思議そうに私にこんな言葉を投げかけてきた。




「いたけど・・、死んじゃったし」

別に嫌味としていったわけではなかったので、言葉はとげとげしくなかったはずだ。



そんな私の言葉に彼女は返事をしなかった。

そしてキッチンで足を止める私の前で立ち止まっていた。





『ずっとこの家から出ないんですか』


「・・・。」


無言で彼女を押しのけて、私はその背後にあった冷蔵庫から続々と食材を取り出す。

そして興味深気に見つめる、彼女の前で再び無言で料理を始めた。





『料理なさるんですね』


「・・・ただの野菜炒め」


ハルカは何を思ったのか、目の色を薄らと金色に輝かせていた。

AIというものは本当にこれほどまでに何から何まで興味を示すものなのだろうか。

そんなことを疑問に思いつつも私は何も言わずに作業を続けていた。

そしてちょっとした味付けした、簡単な作りのそれを皿に盛る。

・・うんまぁ上出来かな。





『梨花』



「・・?」



『手を見せてください』

料理をテーブルに持っていこうかと考えていると、

その思考を再び、お決まりの声色に遮られた。

そして、今度はなんだと思いながら、

質問の意図もわからずにしょうがなく手を差し出す。


『・・・。暖かい。』


「は?」





『それに手が綺麗ですね』



「・・ちょ、ちょっと」




人工知能というのはこうゆうものなのか、否。

これは些か私にも彼女意図していることがわからなかった。

おそらく、ハルカが特殊なのだろう。人の温度や形にまで興味を示すとは・・。

普段の受け答えは、機械的だが、時折こういったことがある、

まるで・・本当に人間のようだ。



そしてなお目の前の彼女は、

私の手を気に入ったのか、

離さずに自身の手とつなぐと満足げにいつもの無表情にもどった。






「あのさ・・。離してよ」



『嫌ですか?』



「わけわかんないし、それにごはん食べれないでしょ」


『・・。わかりました』



こういうと、彼女は素早く納得したように手を放した。

しかし、彼女は非難するような目で私を見ており何か納得がいかないようだ。

表情は変わらないが、少し唇の形が歪んでいる。

それに、目の色が灰色と赤にじわじわと点滅している。

何か言いたげだ。

こんな感じのこの得体の知れない奇妙な同居人を、梨花は扱いかねていた。





いつもなら、他人が自分の家に足を踏み入れるだけで、

服の中に毒針を持った虫が入っているような嫌悪感を感じて、

体が悪寒で震え上がる位なのに、彼女にはそういう悪感情があまり湧かない。





――理由ははっきりとはわからないが、

たぶん、彼女の言葉があまりに抑揚もなく平坦だからだと思う。

まさにそこは、彼女が自分自身で言うように、彼女はOSであり、機械なのだ。

こうして間近で見る彼女は、見た目は確かになめらかな肌を持つ人間の姿をしており、

時折先ほどのように変わったが発言も見えるが、

自分の脳は、彼女をやはりまだ機械の区分として認識しているらしい。

おかげで対人アレルギーも発症しないですんでいる。

でなければ大変だった。なにせ彼女は、自分の脳に住んでいるのだ――

切り離すには、インターフォンを切るよりずっと難儀するはずだ。





         
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