長編夢小説 『 Unusual world 』
□『第1章』 8話 - 時と炎の支配者 -
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『第1章』 8話 - 時と炎の支配者 -
リングに次のプレイヤーが現われた。
世界ランカーのことごとくを倒した挑戦者(ゆりあ)にあてがわれたのは、世界屈指の名プレイヤー、エンパイア・プラム。
196センチの巨体に引き締まったむき出しの肉体、
軍用のカーゴパンツとブーツを履き、顔には無数の傷、禿頭、
体にはこの階級のチャンピオンの証であるベルトを肩がけにかけていた。
落ちくぼんだ目の奥で光る鋭い眼光が挑戦者をとらえる。
ゆりあは、二、三人殺してきたかのような荒んだ目でそれをうけとめた。
いよいよベルトを掛けた闘いが始めるのだ。
おあつらえ向けに挑戦者の死へのタイムリミットは残り30分を切った。
おそらくはこれが最後の闘いになるだろう。
それを悟った観衆は、いよいよ最高潮に達して雄叫びに近い歓声を上げた。
わかるものにはわかるのだ『あの少女は「ネバーホリッカー」だと』。
しかし、わかったところで彼らにそれをどうこうすることはできないのもまた真実。
だから観衆たちは、ただいつもと同じように歓声をあげつづける、
自分達の感覚が狂っているということに気づくこともないままに。。
マイクコールが高らかにプラムの名を叫ぶ。
「さぁ!!!ワールドファイトクラブ史上最も強いとも噂され、
世界ランカーに名を連ねるこの男が、
命を賭して現われた挑戦者にいよいよ応え姿を現した!
知らぬ者のいない歩く核兵器!
ご存知、エンパイァァァァァァァァァ――――」
しかしそこまでコールがかかった所で、プラムの姿は突然歪んだ。
なんだ・・?どうしたんだ?
と、観衆がざわつく。
リングの中央に歩み出て、肩を回していたプラムの姿は、
まるで四角く切り取られたかのように歪み、左右にぶれる。
プラムを取り囲む四角い空間が灰色の砂嵐に染まり、
点滅を繰り返してから、突然電源が落ちるように彼の姿は消え去った。
代わりにそこには一人の女性が立っていた。
全身、真っ黒だった。真っ黒な制服が緩く彼女の全身を包み、
首元の黒のネクタイがそれをゆるく締め上げている。
足下にはわずかに光沢を放つ黒の編上げブーツ。
薄く黒光りするグローブに、それら全ての装備を、真っ黒なローブが滴るように包み込んでいる。
顔にはガスマスク。
そして彼女の淡い栗色の髪だけがその空間を彩っていた。
彼女はゆっくりと呼吸していた。
まるで、自分がそこにいる事を、確かめようとしているかのように。
・・・。
あれは・・・・?
会場は静まりかえり、静かに肩を上下させる彼女を凍り付いたように凝視していた。
呼吸をしていなければ、彼女はまるで彫像だった。
右手には、何か赤く不気味な光沢を放つ剣をもち、顔をうつむかせて立つ彼女は、
ファッション誌の表紙か、
スタイリッシュなモノクロームの絵画のようにも見えた。
「・・・イジェクター?」
どこかで誰かがささやいた。
え? あれが? 女の子なのかい?
その小さなささやきは、枯れ果てた草原に投げ入れた火種となって観衆に火をつける。
イジェクター?
イジェクターなの?
疑問の声はすぐに確信の唱和に変わった。
イジェクター、イジェクターだ!
唱和はすぐに歓声に取り込まれた。
いつの間にか止まっていたビートのBGMが高らかに響くと共に、その唱和は会場を席巻した。