長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第1章』 7話 - 外側中毒(ネバーホリック) -
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『第1章』 7話 - 外側中毒(ネバーホリック) -













「ぅぁっ・・!?」


突然、足裏の床の感覚が消え失せ、硬い地面にたたきつけられた。

腰を強打して、呻く。





・・ここは・・。と思わず、辺りを見渡した。

コンサート会場のような、すさまじい騒音が当たりを取り囲んでいた。

呻きながら身を起こすと、無数の足が見えた。

スニーカーやブーツ、ハイヒールと種々様々な靴が飛び跳ねている。



どこからか照らされるオレンジの光が狂ったように足と足の間を泳いでいき、

巨大なスピーカーから打ち出されたと思しきビートの音が延々と辺りにとどろく。

人々はトリップ状態で跳びはね、歓声を上げていた。

滑らかな打ちっぱなしの地面がまるで脈打っているかのように揺れる。




『梨花、起きてください』

立ち上がろうと膝をついたところで、手がさしのべられた。

いつの間にか、コバルトブルーに髪色と瞳が変わったハルカが眼前に立っていた。

梨花は乱暴にその手を振り払って立ち上がる。




「あなた、一体何をやったの!?」

辺りが騒然としていて自分の声も聞こえない。

怒鳴る梨花に、彼女は平坦な声で

『ネバーランドへお連れしました。あちらを』

ハルカは、表情も変えずにさっと明後日の方向を指さした。




どうやら、ドーム状の会場にいるようだった。

天井に設置された無数のライトがオレンジの光を走らせていて、

その光に照らされた観客達が、歓声と共に飛び跳ねている。

まるでロックコンサートだ。

観客席はドームの中心に向かって逆円錐状になっていて、

その中央にあるのはボクシングでみるようなリングだった。

リングも何やら異様で、周りを鉄の檻のように金属で覆い、

その周りをガラスのような半透明の金属で覆っている。



そしてそこでは二人の人?が何やら奇妙なの対戦をしていたが、梨花はそれを見てまた開いた口が塞がらなくなった。



リングの上の一人は金髪でボンテージみたいな衣装を着て、背中にコウモリの羽をはやした少女。

手には明らかに物理法則を無視したであろう。

自身の身のたけ程はありそうな斧?いや太めの剣を軽々抱えている。

もう一人は上半身裸でボクサーパンツ一丁の黒人。

こちらも何やら槍のような武器を持って唸りながら構えている。

その戦いは一見俗にいう剣闘というものように見えるが、どうも違う。

ボクサーパンツの黒人が槍を振るうと、槍先でで何かが爆発したかのように炎が炸裂する。

少女の方は羽を使って時折重力を無視したように宙を舞い、とんでもないサマーソルトキックをかましたりしている。

総合格闘技、としてくくるにはには無理があるだろう。

一体、あれは何だ?







【ワールドファイトクラブへようこそ!!】



「わっ!?」


突然、梨花の眼前にタスクウィンドウが起動した。

Warld Fight Clubという文字がおどろおどろしく描かれ、

人が剣や拳が打ち合っている映像が流れた。



女性の音声案内が映像に合わせて解説を始める。





【全世界、四二〇〇万人を熱狂の渦に巻き込んだ格闘ゲーム、ワールドファイトクラブ。

ここでは日々腕に覚えのある挑戦者たちがリングに上がり、血湧き肉躍る闘いを繰り広げています。

参加は簡単。ワールドファイトクラブ付属のクリエイトソフトを起動して、

四万八千のパーツから自由にキャラクターを作成してください。

あなただけのファイティングスタイルができあがったら、後は挑戦者に名を連ねるだけ。

三千二百万人のプレイヤー、そして最強の世界ランカー達があなたの挑戦を待っています】




 世界ランカーと思しき人物達がテーマミュージックと共にタスクウィンドウに現れる。

『エンパイア・プラム』、『マスター・チャン』『スカウト・ジョー』『不死鳥・アウレリウス』――――

次々と現れる世界ランカーの中に、今リングで戦っている男の姿があった。

『ブラスト・トム』・・・槍を武器にするスタイルファイター、必殺のブラストショットが敵を粉砕! とある。




「な・・。もう、わけわかんな『梨花。挑戦者を』はぁ?」

非現実的な事ばかりでくらくらしていると、不意に耳元でハルカの声がした。

ぎょっとしてそちらに目を向けると、薄いスカイブルーになった彼女が、

まるで幽霊みたいに宙に浮いていた。





「それより、あなた!ゆりあの所に戻してよ!!」


『・・・。戻っても無駄です』


「無駄って――」

『あの世界にはネバーホリッカーを救出する手段は何もありません。

救急車を呼んだ所で、柔らかいベッドが用意されるだけで、

数時間もしない内に彼女は死にます』

「そんな・・。そんなの信じられるわけないでしょ!?ここからだして!」

『あれを』

ハルカが指さすと、

まるでそこに巨大なレンズが現れたみたいに梨花の前の空間が歪んだ。

うぉんうぉんとわけのわからない歓声を上げて飛び上がる客達の姿はレンズ越しに消え、

リングがズームアップされた。



その瞬間辺りから悲鳴とも歓声ともとれる声があがり、

『ブラスト・トム』の左腕がはね飛んだのが見えた。


自慢のブラストショットも挑戦者の少女の剣にことごとくガードされ、たたき落とされている。

梨花の位置からでは少女は背中しか見えないが、

梨花と同じくらいの細身で、

自身の身のたけほどもある剣を手足のように軽々とふるっているのだ。

梨花は舞い上がるトムの腕に、只々唖然としながら、光景を眺める。




そんな時少女の肘打ちが、ブラスト・トムの顎をとらえた。

トムが大きく体勢を崩し、ふらついた。

大歓声がわき起こる。



少女は極めて冷静にブラスト・トムに接近して、その喉をひっつかむと、そのまま宙に持ち上げた。

自分の体重で首が絞まり、ブラスト・トムが目玉を飛び出させんばかりに目をかっぴらく。

少女はその頬にキスをすると、

突然鋭い歯をむき出しにして吸血鬼のように首筋に食らいついた。

その白く細い喉をごくごくと蠢かせる――――血を啜っているのか・・・?

ビクビクと震えるブラスト・トムの体。その顔から生気が失われ、目がぐるりと白目を剥く。

干涸らびたその体が床にたたきつけられると、

挑戦者をたたえる歓声が会場にわっとひろがった。女は歓声に舞うように応え、コーナーに戻ろうと振り返った。




その瞬間、梨花の目が見開かれた。

最初、梨花は目をしばたかせて、

目にした物がよくわからずにきょとんとした。



あの子、なにやってるの・・? かすかにそんな事をつぶやいた。


「ねぇ・・あれ・・」

唖然として、思わずかすれた声が漏れた。

言葉の続きが出てこない。

目の前の現実を――信じられないが、『現実』をみつめつづけるしかない。


『既に彼女は生体データで脳の17パーセントの機能に異常をきたしています。それに――――



見間違いかも知れない。


梨花は人混みをかき分け、体を滑り込ませ、必死にリングに駆け寄った。

リングに飛びついて、挑戦者の少女の顔を見あげる。

少女はただ静かにコーナーにもたれかかっていた。

雷鳴のように綺麗な金髪が闘いで乱れ、

それが後光のように彼女の首元でうごめいている。

体のラインが出るようにぴったりと張り付いたワンピーススーツ。

金髪に合わせた真っ赤なルージュもひいていて――――

こんなふしだらな姿は、普段からは想像もつかない。


「何やってるのよ・・――ゆりあ!!!」

新たに現れたチャレンジャーに殺伐とした目を向ける彼女の顔は、

紛れもなく、義妹の、ゆりあのものだった。

普段とは違う、金色の髪や、目、唇、表情、どれも彼女のものではなかったが、

あの骨格や、肌や、かもし出される雰囲気が、

どこか弱々しい独特のそれとまったく同じだった。



『叫んでも無駄です』

ゆりあの名を何度も呼ぶ梨花にハルカがそう言った。


『ネバーホリック状態ではゲームのプレイが全てで、他には何も反応しません』

冷静な彼女の口調が気に障った。

目の前の現実も――現実?――理解できない、
信じられない。



梨花はただ、目元に涙を浮かべ、冷静な彼女に怒鳴るしかなかった。

「もう、いったい何がどうなってるかわかんないよ!!お願い!ゆりあを返してっ・・!!」

ハルカは、まるで哀れむような目で、梨花を見つめた。






『ネバーホリックに陥る原因は一つだけ。

現実世界の、仮想世界に対する優位性が失われた時です。

現実の苦痛が、現実と空想の逆転を呼び起こす』

梨花が何か言いつのろうとすると、彼女は『つまり』とそれを先んじて言った。



『これは無意識の自殺です。

そう。現実の苦痛が、彼女をネバーランドへ追い込んだ!』



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