長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第1章』 5話 - 秘密の入口 -
2ページ/2ページ













「なっ――−!?」



耳元で警報機ががなり立てているようだった。

耳障りな高音がぶるぶると震えながらPDAから吹き出す。

思わず、耳をふさごうとした彼女の足下で、

突然何か、重々しく物が蠢く感触がした。

はっとしてコンクリートの床に目を落とす。

別段、何の変化もなかった――すくなくとも見た目は。だが足の裏の感触は、確実に何かが蠢くのを察知していた。
 



鳴り出した時と同じように、ビープ音は突然止まった。

異国に突然放り出されたような気分になった。

一体何がどうなって、自分の身に何が降りかかろうとしているか。

PDAを慎重にアタッシュケースの中にしまった。

それから、おそるおそる灰色の床に目を這わせ、自分でも何事かわからぬ事を決心すると、足下にあった溝の隙間に指を入れた。





その瞬間、床が扉のように開いたのだ。






「はは・・・。もう無茶苦茶だね」

思わず、苦笑いを浮かべながら、

重苦しく持ち上がった床にもたれかかるようにして、梨花はもはや虚脱してつぶやいた。



眼前には、奈落の底まで続いているような巨大な空洞(サイロ)が、ぽっかりと口を開けていた。




サイロの中に設置されていたハシゴを下ると、
そこは下水道のように細長い通路になっていた。

延々と通路は続いていて、先は少しも見えない。

申し訳ばかりの青白い光が、暗い通路を陰影濃く照らしている。

その異常染みた空間は、

暗いところが苦手な彼女を怯えさせるには十分すぎるものであった。





「一体、なんなのよー・・」

目を軽く涙目にして、一人そう呟く彼女の背筋を得体のしれない悪寒が走った。

本能が恐怖を告げていた。

底の知れない洞穴へ落ちていくような、足下のおぼつかない不安感。

とてもここを歩く気にはなれなかった。

この先に一体何が待ち受けているのか、まるで見当がつかない。




だが、恐怖感の以上に祖父が何を隠していたのか、知りたかった。

想像を遙かに超えた嘘が、今一つ一つ目の前でほどかれている。



そう。ここでやめるわけにはいかない。



怖じ気づきそうになる心を、胸を一つたたいて奮い立たせると、通路を歩き出した。

ブーツが通路を踏みしめると、砂利が音を立てる。

その音が、遙か彼方の通路の先にまで木霊する。



・・・ったく、どこまで続くのこれ。




そんな愚痴を心の中で何度呟いたであろう・・



時間にして一時間は歩いただろうか。

途中から時間の感覚は無くなっていた。

通路はとぐろを巻くように極めて緩い弧を描いていて、次第に地下に潜る設計らしかった。



だが、いつまで経っても同じ景色が続き、次第に気が狂いそうになってきていた。




一体、いつまで、ここをさまよえばいいの?


しかし、これまで来た道中を考えれば、とても引き返す気になれず、

蟻地獄に飲み込まれるように、ひたすら歩を進めるしかなかった。

そして、それは唐突に訪れた。



通路の先に、暗闇に覆われた四角い枠が現れたのである。

始めは夢中を漂うようにぼぅっと見ていてわからなかったが、よく目をこらすと、わかった。

それは入り口だったのだ。あふれんばかりの暗闇を抱え込んだ、四角く切り取られた入り口。







駆け寄った。暗闇の中に目を懲らしたが、何も見えない。

入るしかないようだった。

通路からの頼りない明かりにかすかに照らされる部屋の中を観察する。

奇妙な構造の部屋だった。

得体の知れない大量のコードが床に散らばり、

その根本を探ると、図書館のように整然と並んだ無数の金属棚につながっていた。

灰色の、飾りっ気のない棚の中には、録画デッキのような機械がびっしりと詰まっている。

そこから出たコードが、ひたすら部屋の中央に向かって伸びている。



一歩足を踏み入れた時だった。




「なっ!?」


唐突に、まばゆい光が天井から振り下ろされた。

巨大な空間が、遙か彼方の天井で次々と点る真っ白な光と共に、波のように押し寄せてくる。

半秒間隔で順々に点る明かりが、部屋全体を照らすまでに一分はかかった。

一目見ただけでは把握できないような、膨大なドーム状の空間が、眼前に広がる。

圧倒されて、息をするのも忘れた。

テニスでもサッカーでも、下手すれば軍事演習だってできそうな広大な敷地の中に、ずらりと無数の棚が並んでいる。

数十台ではないだろう。数百台、下手したら数千台はあるだろうか。

見上げるようなような高さの棚が、ドームの中央を取り囲むように等間隔で、精確に、敷き詰められている。

中央へ整然と正対するその様は、どこか宗教じみた狂気すら感じられた。




棚から束になって垂れているコードは、他の棚から這い出してきたコードと絡み合って、部屋の中央にぽっかりと空いた円形の広場に続いている。

そこにはまるで天に続く御柱のように巨大な円柱の機械の固まりがあって、至る所で緑や青の小さなランプを点滅させていた。

その柱まで歩いた梨花は、辺りを見渡して唖然として嘆息した。

この御柱を神に見立てて、機械の詰め込まれた棚が正対して祈っているようだった。





「・・・もう、ホントわけわかんないって。」

 もはや、驚きの連続で感覚が麻痺しているのか、梨花は只々苦笑いを浮かべてそう呟いた。





これが祖父の秘密だろうか。

しかしこれでは何が何だかわからない。

この施設は、一体――――




「熱っ・・!?」

そこまで考えて、ふと胸元に何か熱を感じた。

手を突っ込んで取り出したのはピルケース。

それは史郎警部が見せてよこした、

祖父から『摘出した』というあのPlay fun!48だ。



あ、と声が出た。

ピルケースに入った小さなイトミミズの先端が、かすかに赤く明滅している。まるで、呼吸するみたいに。




「反応、してる・・・?」

この道の先は、Play fun!48を導入した先にあるという事か。

引きこもって暇を持てあましていたというのに、

梨花は一度もこの世界最高の娯楽を脳に導入しようなどとは思わなかった。

父への反発もある。

だが本当のところそれは、何か、自分の奥底で言葉を持たない命が叫ぶ拒絶の悲鳴のような、

そんな恐れを無意識に感じ取っていたからだった。




今、Play fun!48を導入するという可能性と対峙して、ようやくその感覚に気がついた。

その恐怖は全身にとりついて、身動きが出来なくなる。



だが、同時にそれを飲み込むような衝動が彼女の中でわき起こっている。

知りたい――――おじいちゃんは一体、何者だったのか。

何をしていたのか、

何をしようとしたのか、

それはつまり、この屋敷の中、日陰の世界しか知らない梨花にとって、

これからどうすればいいのかという疑問の答えにもなり得るのではないかと思う。





細く綺麗な指がピルケースの蓋を開ける。

手が震えていた。

だが蓋は問題なく開いた。

ケースの口を鼻に押し込むには、強烈な拒否反応と戦わなくてはならなかった。

胸の内から吹き出す吐き気を飲み込んで、一息はく。

それを何度も繰り返した。



・・よし。




しばらくして覚悟は決まった。

一気にマイクロマシンを吸い込んだ。

すぐに変化が始まると思った。

だが、何も起こらなかった。呆然と辺りを見渡し、代わり映えのしない様子に首をかしげたその瞬間、

すさまじい頭痛が頭蓋の中ではじけた。



「ぅぁあぁっ!?なっ、ッ―――−」



ずくずくと、まるで生き物が這い回るみたいに頭蓋骨の皮膚がうごめく。

両手で頭を覆って、頭蓋の内側で爆発しているような頭痛と這い回るミミズのような感覚を押しつぶそうとするが、

それらは激しくなるばかりだった。







ぉ・・・おじい・・・・



おじぃちゃ・・・・。



意識が朦朧として硬い床に倒れ込む。

気づくと、喉が激しく震えていて、

自分がまるで獣みたいな咆吼を上げているのに気づいた。

それを宙から眺めているような感覚に包まれた直後、

電池が切れるみたいに意識が途切rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr














――――――。





――――。






<now loading......>

















<now loading...........................>


<now loading...........................>



<ロードが完了しました>








<適用を開始します.....................>

<初期アクセスポイントを設定中です.......完了>

<知覚統合のフォーマット..........CPへのアクセスを確立中.....................>

<受容体にパッケージを適用中............>

<pk3解析中...........Mary's roomはクオリアを解析しています>

<..........クオリアを初期化・並列化しています...................解凍・適用完了しました>


< play fun!48が生体情報を取得しています

....................適正値に修正しています..........感覚器官のフィードバックを再構築中

(※激しい感覚受容を行わないでください).........フィードバックルート構築............RCS(MMM)が設定されました.........>

<インターフェースシステム(CS)を適用中.......

Play fun48の取得した生体情報を適用しています....................

※左腕と左足の構築情報がありません!

スキップされました。※バックアップログを参照して問題を解決してください..........

構築情報にMary's senseを上書きしています...........四肢の統合知覚は正常に上書きされました>





 ※警告※

ハードウェアに重大な問題発生!(Px345521-22-735-4)ハードウェアの認識が重複しています。

重大なシステム衝突が起こる可能性があります。

ハードウェアの二重登録は絶対に行わないでください。生体機能が損傷する恐れがあります。
 
続行しますか?

>>>>>中止する(L)

>>>>>続行する(R or 10)...............(9).....(8)....(7)....(6)...(5)............適用を続行します



※緊急※

重大なシステム衝突が発生しました
 
重複したハードウェアが相互干渉しています>>>>>>>管理権限が無いため修正できません

<詳細>ハードウェアが相互に機能し合っています。突発的な起動で身体・意識に重大な疾患を残す可能性があります。

現在までに27の箇所で脳の損傷が確認されました。

管理者権限を有したアカウントでハードウェアを凍結してください。




システムはセットアップを完了しました!



※バージョン情報を更新※
<V-tec Life ver7.2.5.11>
システム製造:東京サンライズ社
モデル:Play fun!48

 起動の準備が完了しました。(5)....(4)....(3)....(2)....(1)........................


<起動中........>


<起動中..........>


<起動中..................................> 











‐ To be continued -
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ