長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第1章』 5話 - 秘密の入口 -
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『第1章』 5話 - 秘密の入口 ‐
















おじいちゃんは一体何者なの・・。

そして、何をしてたんだろう。


私の頭の中をそんな祖父に対する様々な疑問が埋め尽くしていた。

そして行き着いた結論は一つ。




知りたい。私の知らない真実を・・!!





祖父が何を隠していたのか、それを知る必要がある。

出てきた銃をどこかで処分するにしても、

一体祖父が何を目的としてそんな物を持っていたのか、

そして史郎刑事が語ったように、

なぜ脳に機械(デバイス)を仕込んでまでゲームなどしていたのか、それが知りたい。



無関心を装って、何も見なかったことにしてしまうことも、今ならまだ出来る。

だが、そうしようと思うと、史郎の言葉がちらつくのだ。





"大量殺人の、嫌疑"――――


そう。その言葉が。








祖父は、私が今まで生きてきて、ただ一人の、

"心の底から信じられる大人"だった。

両親の元から逃げ出して、孤独な夜を過ごした

あの朝、まだ小さかった私の手を握ってくれた、

祖父のごつごつとした手の温もりは、今でも覚えている。

そんな祖父のあの手が、血で染まっているのだと言われて、娘として黙っている事は、できない。






おじいちゃんにも、何か理由があるはず・・。


そう思い、辺りを見渡す。

昨日、この床に散らばった惨状を見た時、

思わず逃げ出して何もみなかった事にしてしまった自分。

今、それと再び向き合った私は、床に転がっているケースに手を伸ばす。

その重い蓋に手をかけ、ゆっくりと、引き上げるように開く。






「え?・・!?


こ、これって!?」




髑髏と目があったのだ。

その瞬間、梨花は情けない声を上げるとともにぎょっとして、身動きできなくなった。

まごう事なき人間の頭蓋骨が、

ばらまかれた銃弾にまみれた黒い保護パネルの中にしまわれていて、

アワアワと驚愕している彼女を冷然と見つめている。

ふるふるとこわばる細い腕をなんとかのばすと、木や鉄とも違う、

乾燥しきった堅い石のような感触が、手中に収まった。

思いの外、軽い。





「ぅぇぇ。ほ、本物・・?かな。・・。」


偽物ではない、私は直感的にそう感じた。

フェイクと言うには、あまりに、あまりに・・
人間じみている。

色濃く黄ばみ、所々褐色になっていて、歯並びはがたがた。

額の骨ははきれいな丸ではなくて、ぼこぼことへこんでいた。

なにより眼窩の下の骨は痛々しいほどに砕けて穴が開いていて、

激しい衝撃を受けて損傷したのが明らかだった。

生前の姿が――――ひいては死後直後の顔が、浮かびあがるようだった。






白く細身の19歳の少女の腕の中にあるには不釣り合いなそれは、

観賞用やハロウィンの仮装グッズにしては、あまりに生々しい。





『あなたのお爺さんに、大量殺人の嫌疑がかけられています。』


その瞬間、再び頭の中を史郎の言葉がフラッシュバックした。


・・・違うッ!ぜったい違う!!

ふるふると現実を否定するかのように梨花はかぶりを振った。

史郎の言葉を受け入れそうになる自分を振り払う。



でも確かに祖父は、何かを隠している。

骸の仮面はそれを悠然と物語り、反論を押しつぶしてしまう。



だが、祖父が史郎が言うような、殺人鬼だとは、思えない。

少なくとも、梨花が知っている祖父は、厳しくも優しい、

彼女が接してきた中で一番信頼の置ける人だったのだ。


頭蓋骨をどけ、アタッシュケースを閉じようとする。

すると、保護パネルのとケースの縁に、隙間があるのに気づいた。

どうやら、まだ保護パネルの下に何かあるらしい。

そういえば、ケースの厚さに対して、この容量の使い方はアンバランスだ。

指を押し入れて、保護パネルを外した。
 
ケースの底には写真の中で祖父が着ていた装備が、綺麗にしまわれていた。

そしてその上に封をするように、大きなレンズが二つ付いた仮面(マスク)がぽつんと置かれている。



梨花は、それを何の気無しに手に取った。


――――それはガスマスク、のようだった。



だがそれは、あちこちすり切れて穴が開き、実用性はもはや皆無のように見える。

無機質な大きいレンズが、じっと梨花のこわばった顔を映し出していた。




口元についたボンベが、触るとひどく冷たい。

「・・・鴉(カラス)?」

レンズの片方に、片翼を広げた鴉の絵が描かれている。

こちらに飛びかかってくるような仕草、鋭く持ち上がった目、

その背後には、達筆な漢字で『鴉』と印字されていた。

ふと、アタッシュケースに目を落とす。

ガスマスクのあった場所に、何かが姿を現していた。どうやら、下敷きになっていたらしい。

手に取ると、現代では考えられないほど分厚い、情報端末(PDA)だった。

厳つい弁当箱のようだ。軍用だからだろうか。




「あっ・・」


あちこちいじっていると、静かなドライブの作動音と共に、ディスプレイに光が宿った。



『コードの入力を待機中................』
 
国際共通語(ユニコ―ド)で書かれたそれだけの文字が、点滅していた。

PDAの端にあったキーボードに気づき、祖父に教えてもらった国際共通語を苦労して思い出しながら、適当な語を入力する。

 
"kurose""enter""unrock""start""config".......




「うぅー・・、なによこれ」



どれも反応しなかった。

『コマンドは拒否された』と出てくるだけだ。ひとまずそれを置いておくことにした。

しかし、最後に一つだけ、なにか打ち込めないかと考えて、史郎がよこしたログを思い出した。

他にいい案も思いつかず、梨花も自棄(やけ)になってスペルも曖昧に、適当に打ちこむ。



 "eject"


 
その瞬間凄まじいビープ音が鳴り響いた。
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