長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第1章』 4話 -  祖父への疑惑 -
1ページ/2ページ
















『第1章』 4話 -  祖父への疑惑 -













祖父"秋元 康"は酷く旧式(アナログ)な人間だった。





家具のほとんどに人工知能(AI)が搭載され、

電子機器の操作に音声入力が当たり前になっても、

祖父は相変わらず留守録機能もないような黒電話を使っていたし、

食事も自分で作り、エレベーターは設置せず自分で階段を上がった。

祖父はそういう生活を好んでいたし、そうじゃない生活を軽蔑していた。




それに梨花もその生活に慣れきっていた。

この家には普通の家にあるような、一々要件を訊いてくるような電子機器はない。

家の鍵さえも開けっ放しなのだ。
 






そのお爺ちゃんが、まさかゲームをしていたって?

・・・ありえない。
 
ありえない、はずだ。







だが、人には誰しも秘密がある。





隠しておきたい過去、忘れてしまいたい過去、

現在進行形のそれ。





それは私にだってある。

例えば、それは高校に入学して少したった頃の記憶。






『いじめ』


それまでもいじめに近いこと(影口など)は受けてきたが、高校時はひどかった。




ある時。

よく話してもいない一部の女子達に何故かわからないが呼び出されたのが最初だった。



内容は『私の狙っていた男があんたに気があるだの』、

『クールぶった雰囲気がいらつくだの』、

『歩く音がうるさいだの』どれも理不尽で難癖をつけようとして考えた内容ばかりに思えた。




そんなことをいっては、彼女達は私のことを罵倒し、時には殴りつけた。

なにせ片手片足が充分に動かないから、逃げるわけにもいかず、

いつも理不尽な呼出にはしょうがなく応じた。





そんな中でも学校生活も受け入れ頑張っていた私を、その連中はあざ笑い、

友達も皆、彼女に近づくと同じようにいじめられるのではと、離れていった。




もっとも、あの難癖をつけるチンピラのような集団にとっても、

窮屈な学校と言う名の収容施設の中で、

教師と言う名の看守によってもたらされる甚大なストレスがあったようで、

私の存在はそのはけ口に打ってつけだったのだ
だろう。





寂しかったし、痛く、つらかったけど、次第になれてくれば何をされてもそれほど気に病むこともなかった。










しかし、帰りが遅くなったある日。

学校からの帰り道で数人の不審者に出くわし、

将又強姦まがいの行為を受けそうになったあの時は別だった。


抵抗も右腕だけでは簡単に抑えられ、わけもわからずただ動かない左腕呪った。

たまたま近くに巡視中の警官が通って助かったもののあれは本当に怖かった・・。




後でわかったことであの時の犯人が、

私に難癖をつけている連中の知り合いだと知った時は、背筋に悪寒が走るとともに、

つらい中でも懸命に、私を昼の世界につなぎとめていた一筋の糸、

その糸が限界を告げるかのように私の中で音も立てずに切れた。あの感覚を覚えている。





あの瞬間から私は人というものを受け入れることができなくなり、

それ以来学校へいくことも諦めた。

そして、私は、そういう過去と決別するために、昼の世界に背を向けたのだ。
 




そう、それと同じ事だ。

祖父は誠実で優しい人だったが、やはり秘密がないわけじゃなかった。







『私はこういう仮説を考えているんです』




一時間ほど前、史郎が講釈を垂れた『仮説』を再び思い浮かべる。

反論したい思いだった。

しかし、彼にずらずらと並べ立てられた正論は、

無知な私には反論の余地がないだけにあまりに腹立たしかった・・。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ