長編夢小説 『 Unusual world 』 

□『第1章』 1話 - 鉄と首輪 -
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「オールカット。コール」



梨花は横に手を振ってそうつぶやく。

するとやかましくがなり立てていたウィンドウの群は次々と消えていき、

代わりに屋敷の奥からデフォルメされたヘッドフォンマイクの立体映像(ホログラム)が滑りこんできて、

梨花の首にからみついた。

眼前に音を立てて起動したウィンドウを、

梨花は右手の指で叩いた。受信、というグリーンの枠で囲まれた文字がぺかぺかと点滅する。



『コールは五回以内でとれ』


「・・・。はい」


出たと同時にぶしつけにそう言う電話の相手に、梨花は小さく舌打ちした。

タスクウィンドウには壮年の男が浮かび上がっている。

枯れ木のようにやせて、とがった顎。

落ちくぼんだ目に小さく、だが頑なな意志を据えた眼がぎらついている。

短髪をオールバックにした黒髪。

スーツを折り目が見える程きっちり着こなす。

その映像の下には、通信相手の名前が表示されている。




 "秋元 智信"



それは、言わずと知れたあの父の名であった。


『ゆりあがそっちに向かった』


梨花は屋敷に続く渡り廊下へ向かいながら、

その凶報に嫌そうに視線を明後日へ飛ばした。

彼女が一歩歩く毎に、ぎしぎしと左足の関節が音を立てた。

足を上げる度、短パンの裾があがってくるぶしがあらわになる。

焦げ茶色をした、合成樹脂の義足。





「また?なんで。呼んでないのに」


『本人に聞け』


たずねたって答える物かと梨花はイラ立った。

ろくに顔も覚えていない父が再婚すると聞いたのは去年の暮れ。

知った事かと思っていたが、祖父が死んで以来、

父の新しい家族は梨花にちょっかいを出すようになった。

再婚相手の家族と円満な関係を築きたいのだろうが、

血でつながっているはずの父と娘がうまくいっていないのに、そんな事が出来ようはずもない。
 
特に義妹のゆりあは――まぁ義妹といってもほぼ同い年だ。

梨花の方が数ヶ月生まれるのが早かっただけ――それがどうもわからないようで、

ことある毎に梨花が住むこの屋敷にやってくる。


その上口べたなのか気が弱いのか知らないが、おどおどしてまともに口を利かない。

梨花だってよく喋る方じゃない。

結局お互い無言でお見合いになり、気まずい思いをするのは私の方だ。



「わかってると思うけど。

いくら、あの娘がこようが、何をさせようが、そっちの家には死んでも行かないから」


『・・。ふ、相変わらずだな』

久しぶりにあった娘の変わらぬ姿に喜ぶ声ではない。

抑揚もなく、低く抑えられた声音。


『妄想病(パラノイア)だな。屋敷の中に閉じこもって、

自分以外は全部敵だと思い込んでいるが、

実は弱くて脆くて、見てくれだけ大人びたお前は、ただのわがままなガキだ。

いまのお前に必要なのは"首輪"だな』


「なっ・・!?」


腹の内がかっと熱くなった。梨花の腹の中いっぱいに詰まっていた炸薬が、

父の言葉で一気に燃え上がる。


「何が首輪よ!私の事好き勝手して捨てたのは、あんたでしょ!」


受話器のホログラムの向こうで、父が鼻で笑う気配がした。


『だから迎えに来てやってるのに、お前が意地を張っている』


わき起こる怒りが押さえつけられない。

拳をぶるぶると震える程握りしめ、

噛みしめた奥歯の奥からこし出すように言葉をはき出す。


「私に"首輪"をかけようとしたら、それであんたを絞め殺してやる――!」


『ふん・・。できるならな。用はそれだけだ』


早々に切り上げようとする雰囲気をさっして、梨花は「ちょっと!」と声を荒げた。


「大体、お爺ちゃんの葬式も顔出してないのに、こんな事で電話してきてホントなんのつもりなの・・

お線香くらい上げに来たらどう!?。あなたの父親でしょ!?」



返事を待ったが、いっこうにそれはなく、気がつくとコールは切れていた。


「・・・クソ親父・・。」


梨花は小さく、口汚く毒づくとウィンドウを乱暴に操作してこちらからの通信も切った。





‐ To be continued -
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