時間と角砂糖。
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それはまだ、私が小さい頃
母親の代わりをする姉さんを見て、
私は幼いながらにも“強く”なろうと思ったことがあった。
綺麗で優しい姉さん
そんな姉さんを守れるようになろうと
近所の空手教室や柔道教室に通っては、毎日のように特訓した
その甲斐もあってか、私はそれなりに大会では優勝もしたし、学校でだって男子にも負けないくらい強くなることができた
だけど・・・
強いから、心も強いとはかぎらない
強いからこそ、迷い続けて出口が見えなくなる事だってあるのだ
ブラッドと私が対照的だというのなら・・
きっと”彼”と私は”誰よりも”似ているのだろう
……
「あぁ、お嬢さん出かけるのなら少し頼まれてはくれないか?」
ある日の昼の時間帯
太陽がギラギラと輝き、眩しいほどにそれが照りつける中、お茶会の後片付けをしていた私はそうブラッドに声をかけられて振り返った。
「何を?」
大体、ブラッドの”頼まれてくれないか”にはろくな意味が含まれていない
ましてや今は昼の時間帯、何かよからぬことを考えてはいないだろうかと身構えてみたがどうやらその感は今回ばかりははずれたようだった。
「お嬢さん、まるで私が何か君にしでかすみたいじゃないか」
「今までのブラッドの”頼まれてくれないか”にはろくな意味がなかったもので、
で、今回は何の用事なの?」
「ひどいいいようだな、まったく
何、ただ出かけるのなら紅茶を買ってきてもらおうと思ってね」
ふっと苦笑いをして彼は新しく注がれた紅茶に口をつける
一見、そんな彼を見ただけならば普通の人ならば機嫌がいいのだろう、そう思うはずだ。
しかし残念な事にあんなに優雅に紅茶を飲んでいるくせに
今のブラッドは非常に機嫌が悪い・・
非常に・・非常に機嫌が悪いのだ
(たかが女王様に紅茶を横取りされたってだけで何であんなに機嫌が悪いのか・・)
(・・・馬鹿みたい)
「お嬢さん?」
「え?あ、何」
一瞬、心の中を見透かされたのかと心臓が跳ね上がる、しかしさすがのブラッドもそこまでは分からなかったようで”頼まれてくれるね”と一言言ってはまた紅茶に口をつけた
(どうせ断れないよね、後が怖いし)
「まぁ、いいけど所でどこの店の紅茶がいいの?」
この世界には紅茶好きの領主が2人もいるだけあってそれなりに紅茶専門店が並んでいる
。勝手に変なのを買ってきて火に油を注ぐのも怖いし、一応・・聞いておく事にした
「そうだな・・それなら最近出来たという
”時計塔”周辺の店のものを買ってきてくれ
」
「時計塔、周辺の?」
「あぁそうだ、何でも種類が豊富で
茶葉もそこそこのものらしい、何よりもあんな辛気臭い場所、私は行きたくない」
「辛気臭いって・・」
前に一度・・この世界に始めてきたときに立ち寄った時計塔とそこの主を思い出して見る
あの時はパニックになっていてそれどころではなかったが、そこそこに周辺の町は賑わっていた(ような気がした)し、主であるユリウスも真面目で、辛気臭いっていうほどではなかったような気がした
「君は気にしなくていい」
”だから早く買って来い”
そう、目で促されているような気がして
私はその言葉に納得がいかないながらも、時計塔へと足を運ぶのだった。