EtherGears

□myosotis,上
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私はそれを記憶する。
この世は混沌にあふれている。
しかし、全てが混沌というわけでもない。
秩序のみではこの世は成立しない。
混沌がなければ秩序が成立しないからだ。
私はそれを記憶する。

その日は風は柔らかく、砂が舞い上がるほどでない。
代わりに燃え上がるような暑さの日差しが降り注ぐ。
広大な砂の海の中に文明の亡骸を漁る者が一人、ここにいる。

焦茶色の使い込まれたフードの付きの軍用ローブを羽織った娘は、横たわる10mはある機甲兵器に登り着き、周りを見回す。
鋼と等しい義足が合金とぶつかり歩みを進めるごとに異なる音色を奏でる。

乗降用のハッチを見つけ、力任せに手動ハッチ開放ハンドルを引く。
かなり損傷が激しいのか油圧の音が力ない、重く引っかかる音とともにハッチが開くが派手に被弾して装甲が歪曲しているため途中で止まってしまった。

すると娘は右義手をかざし瞼を閉じるーー

なんと、損壊していない側の機甲兵器の腕が動き出し、ハッチをもぎ取り砂上に置いた。
一息ついてから中を覗く・・・


"予想"していた物体は無く、脱出機構が働いて座席がポッカリとなくなっている。

「(やた・・・大収穫!)」

手際良くコックピット内の部品を外しまくり、麻袋に詰め込んでいく。
砂漠牽引用のエーテル原動機付き機動車に載せる。

80kg以上はあろうかという部品の数々を載せ、帰路に着くべく飛び乗る。

しかし-----

「(ぉ・・・?)」
直前で急に脚がうまく砂をつかめなくなり派手に反対側へ転ぶ。
この症状はかれこれ3ヶ月前からなんとなく感じていたがそろそろ身体にパーツが"合わなくなってきている"のだ。
「帰ったら、きいてみよう・・・!っと。」

代わり映えのしない砂の丘を越え、岩の露出する箇所を辿るように進む。



すっかり陽も傾き、周りが夕陽に染まってきた頃、ふと地平線の手前で泳ぐヒレが見えた気がした。
とっさに動力を落とし車両を放置、退路を確認しつつ近場の岩陰に隠れ息を潜める。

この辺りは縄張りを主張する砂泳龍が彷徨いていると聞かされていた。

そっと岩陰から覗き込めばやはり砂泳龍が間近に顔を出す。
縄張りの付近はいつもこうだ。
息を潜めても彼らは匂いと音、生物の鼓動など地面の振動を感じ取り獲物を捕らえる。
眼は退化している為ほとんど見えないが、龍はその娘を完全に捉え、盛大に砂を巻き上げて陸に体を晒す。

こうなっては逃げられないので大人しく岩陰から平地へとゆっくりと場所を移すしかない。
ナイフの様な牙をギラつかせながら尾ビレを地面に向け振り回し始める。

砂泳龍のリーダーは必ず複数で狩りをする為こうして鮫肌状の皮膚の尾で砂を擦り固有音を上げて仲間を呼ぶのだ。
ここで下手に大きく動けば一気に突撃されるか噛み付かれてバラバラにされる、それを知っている娘はあえてゆっくりと後ずさる。
同じようにヤツも重い巨体を揺らしながら歩み距離を詰め、互いに距離を一定に保ちながら時間を稼ぐ。

砂が流れる音が増える、仲間が続々と集まり始めていた。
娘はベルトに引っ掛けておいた"土竜避け"を握り締めタイミングを計る・・・。

砂が静まる、目前の龍が2度素早く地を擦る。
(今っ!)

思考と同時に行動!
ヤツに向かって走り跳躍、同時に土竜避けを砂に突き刺さる様に投げ込む。
開口し、突撃する目前の砂泳龍を踏み越えさらに跳躍、車両まで走る。
息を整え振り返れば鋭敏過ぎる聴覚に爆音を食らった砂泳龍の大小がのたうちまわっている。
急ぎ点火し発進、4kmほど進むと少し安定した足場の岩場に走り込み、隠された扉を引き開ける。
ここがバルターの隠れ家だ。
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