short

□VDオムニバス
2ページ/8ページ

仙道

放課後、ぼちぼち帰ろうと靴箱に向かったら、片手にスポーツバッグ、もう片手に紙袋を抱えた仙道と会った。
今日の仙道は見たくないと思ってうまく避けていたのに。上手くいかないもんだ。

「何それ。重そうだね」

愚問だ。我ながら愚問。

「いや、何かたくさん貰っちゃってさ」

いつものように眉を下げてへらりと笑う。

あたしはこの笑顔が好きだけど嫌いだ。
安心できるようで心許せない。一見心を開いているようなのに本心が全く見えない。


仙道の腕には、溢れんばかりの女の子からの気持ちが抱えられていた。
そりゃもちろんその中にはお義理もあるだろうけど、ほとんどが本気の気持ちだろう。甘いだけじゃない、重い気持ち。

「大変だね、モテる男は」
「大変なんかじゃないよ。嬉しいよ。オレのために準備してくれたんだし」

さすが。モテる男はコメントも優等生。

「お前は誰にもあげてないの?」

紙袋を下ろした仙道が上履きを靴箱に入れながら聞く。

「別にあげたい相手もいないし。製菓会社の策略に踊らされるのも癪だしね」

…我ながら相当なひねくれもんだと、思う。
周りの女の子が赤やらピンクやらの売り場に群がっているのを横目で一瞥して、でも心の底では素直に自分の気持ちを表現できるその子たちを羨ましがってるなんて、どれだけひねくれているんだろうと、思う。

あたしは素直になんかなれない。好きだなんて言えない。振られるのが怖い。

こんな男なんかを好きになってしまったから、なおさら。


「オレは欲しいけどね、お前から」
「は?」

仙道はいつもそうだ。こっちが赤くなりそうなことを事も無げにさらりと言ってのける。言い慣れている。
そんな軽い言葉は信用できない。

「ねえ、何でいつもそういうこと言うわけ?」
「何が?」
「だから、あたしから欲しいとか」
「そう思ってるから」
「はいはい」
「どうせ、信用できないとか思ってんでしょ?」

そう言って仙道は、あたしの手首を掴んだ。思ったよりもごつごつして、骨ばっている。男の手。
「ちょっと、何すんのよ」
「いいから。分かる?」

そう言って、仙道は掴んだままのあたしの手のひらをそのまま自分の胸に押し当てた。そこから伝わるとくとくと早い鼓動と、仙道の熱。

「心臓が早いの、分かるでしょ?」

そして、いつものように眉を下げてへらりと笑う。

「俺、こんな事お前にしか言わないよ。お前も素直になってよ」


END


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ