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□君を好きになりたかった
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俺が幼馴染であるあいつに対して他の女とは違う感情を抱いていることなんて自分自身で最初っから気付いていたが、それが恋だなんて夢にも思わなかった。
ただほかの女よりずっと長く近くにいたから、そりゃその他大勢と一緒じゃないだろなんて能天気に思っていた。
今までそれなりに誰かと付き合ってきたし、そのとき抱いていた気持ちとあいつを想う気持ちは違っていたから、あいつを特別だと思うこの気持ちが恋だなんて夢にも思わなかった。
俺があいつに対して抱くこの気持ちが世間一般では恋だと呼ばれるものだと言うことを知ったのは、あいつが俺じゃない男と指を絡めて帰っているのを見たからだ。
あの時、俺の心臓がぎゅっと掴まれたように苦しくなったのは気のせいじゃない。
ずくずくと黒い感情が湧き出てきたのも気のせいじゃない。
感じたことのないこの痛みを持て余している現状がその証拠だ。
あいつが俺以外の男を連れているところなんて想像もできなかったし、俺があいつ以外の女を連れているところなんて我ながら想像もしなかった。
ただ、あいつと俺という組み合わせは何の違和感もなく俺の中に存在していた。
思えば俺の単純な頭には、あいつの隣には俺、俺の隣にはあいつしか想像していなかった。
俺がいつからあいつのことを好きだったのか、それはもう定かじゃない。
ただ、俺があいつに惚れていることに気付くチャンスなんてきっといくらでもあった。
でも俺はそれに気付かなかった。気付けなかった。
あいつが近くにいなくなった今頃になって分かる。俺にはあいつが必要だった。
でもどうやらあいつにとって俺はそうじゃなかった。
かつて俺がバスケから離れた時宮城らに対して抱いたような、どろどろと黒い感情に似たものが俺の中で燻ぶるのを感じる。
この感情が名前も知らないあの男に向けられていることも分かる。あの男がいなかったらあいつはまだ俺の横にいたかもしれないし、俺が自分自身の気持ちに気付けたかもしれない。
だけど、自分の思い通りにいかないことが世の中にあるなんてことはすでに身をもって知ってしまっていたし、俺の黒い気持ちはただの言い訳だって本当は分かってるし、あいつの気持ちを手に入れるためにじゃあ俺が何をすればいいのかなんて、てんで見当もつかない。
思い通りにいかないからといって前みたいに癇癪起こして誰かに迷惑かけるわけにはいかないんだよ、俺はもう。
気付いたときには終わっていたなんて、安いドラマじゃあるまいし。
君を好きになりたかった
だれよりも早く
さようなら幼かった昔の俺、そして俺にとって本当の初恋
END