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□ある夏の日の話
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さらに俺がいない間に、今年入った一年にまで舐められている徳男達のていたらくも、そいつらがよりにもよってバスケ部だったりバスケ部とつるんでいることも輪をかけて俺を苛々させた。


体育館に近付きたくなかった。バスケ部に近付きたくなかった。だが、もうどうでもよくなった。
宮城も、バスケ部も、とにかく全てをまとめてブッ潰すことに決めた。


卑怯だと思われても何と思われてもいい、とにかく全てが気に入らなかった。
バスケ部も宮城も、とにかく全てが壊れてしまえばいいと本気で思った。宮城がどうなろうがバスケ部がどうなろうが俺が知るか、全てを壊そうと体育館に乗り込んだ。




*




水戸達や徳男のおかげでバスケ部は事なきを得たが、本当なら少なくとも俺と宮城は退部だっただろう。
俺はバスケなんか二度とやらねえって思ってたし、第一バスケ部なんてとっくの昔に退部になっていると思っていたから知ったこっちゃなかったが、宮城は間もなく始まるインターハイ予選に賭けていた。
こいつは俺に、一度ならず二度までも、バスケを奪われるところだった。




部活に復帰して一ヶ月と少し。

こいつは、何も言わない。




宮城は、俺とやり合ったことも、俺のせいで入院した事も、宮城にかこつけてバスケ部を潰そうとした事も、未だに何も言わない。

それどころか、まるで俺達の間には何もなかったかのように俺に接してくる。
部活の時も、試合の時も、校内で会った時も、いつでも。

俺の事を三井サンと呼び、試合の時にはパスを寄越し、練習後に桜木と一緒になって俺をおちょくったかと思えば校内で会えば挨拶をしてくるし、とにかく、何もなかったかのように接するのだ。


「なー宮城」
「何っすか?」
「お前って、バカなの?」
「…何ナチュラルに喧嘩売ってんすか?」
「いや、マジでさ」


もっと上手い尋ねようはいくらでもある、が、自分からあの事を蒸し返すような事はしたくない。
できるならもう二度と思い出したくない。


「…悪かったな」
きっと宮城に聞こえないくらいだろう小さい声で、何度目かになる謝罪の言葉を呟いた。



「三井サンさあ」
二歩ほど先を行く宮城が言う。
「あ?」
「アンタ色々考えすぎなんすよ」
もしかして、さっきの一言が
「聞こえてたのか?」
「何が?」
「いや、別に」


「三井サンって、元々そこそこ優等生だろ?」
宮城はこっちを見ずに言う。
「はぁ?別にちげーよ」
「まーいーけど。俺は中学ん時からこんなんだからさ」
「……」
「もういいじゃないっすか。楽にいきましょうや。とりあえず、ラーメンでも食いましょうや、先輩」
そう言って振り返った片耳のピアスが、月の光でキラリと光った。


「お前こんな時ばっかり先輩とか言うなよ」
そう言うと、
「俺ミソチャーシュー大盛にギョウザでー」
という声が返ってきた。


END

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