short

□vapor trail
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いつの間にか、何だが日が長くなったなあ。


vapor trail


今日は1週間の中で唯一、午後からの授業が6限までしかない水曜日。
いつもなら即行学校を出て、寄り道しながら帰るけど。
今日は何だかそんな気分にならなくて、教室の窓からグラウンドを眺めてみる。
野球部、サッカー部、ラグビー部。テニスコートには軟式と硬式のテニス部員たち。


みんな頑張ってるなあ。
あたしも何かやっとけばよかったかなあ。
何か賭けるものがあるって、うらやましいなあ。
そんなことを考えていたら、ガラガラっと乱暴に教室のドアをあける音。
振り返ると、部活に復帰したばかりの三井が、首からタオルをぶら下げて立っていた。


「何やってんだ、お前」
「んー、まったり?」
「ヒマ人め」
「うっさい。三井こそ何やってんの?部活まだ終わってないでしょ?」
「あー、机に携帯忘れちまって。今休憩なんだよ。全く赤木の奴、鬼のようにしごきやがって」
「ふーん」


ぶつぶつ文句を言ってはいるけれど、三井はどこか楽しそうで。
満たされてる顔ってきっとこういう顔なんだろうな、と思った。
窓の外に目を向ければ、少し赤く染まり始めた空に、飛行機雲。
薄いオレンジの線を真っすぐにのばしながら、彼方へと消えていく。


「お、飛行機雲じゃねーか。めずらしいな」
あたしの視線に気付いた三井がそう言った。


確かに珍しいのかもしれないけれど。
でも、三井が本当に懐かしそうにそういったので。
きっと、三井は、長い間空を見上げる事もなかったのだろう。
そう考えると、少し切なくなった。


「ねえ三井、知ってる?」
「何を?」
「飛行機雲って、本当に綺麗な空にはできないんだって。大気中の小さな不純物とかが核にならないと、できないんだって。綺麗過ぎるのもダメなんだね。必要ないと思えるものだって、無駄だと思えるものだって、やっぱり必要なもんなんだね。もしかしたら、この世に必要ないものなんかないのかも。無駄だと思ってたものだって、結果としては必要なのものなのかも」
この前、たまたまやってたテレビの受け売りだけど。
「ふーん」
三井はそう言って、再び飛行機雲に目をやった。
…余計なこと、言ったかも。



「試合」
「え?」
余計だったかもしれない自分の言葉を激しく後悔していたら、三井が言った。
「週末、決勝リーグなんだよ」
「あ、そうなんだ」
「ヒマだったら、見に来いよ。どーせ予定ないんだろ?」
「失礼な」


土日は、友達とショッピングに行く予定だったけれど。

行き先を総合体育館に、変更しよっかな。


END


 

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