short

□end of summer
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課外授業を終えて帰る、夕方。



end of summer



オレンジ色の夕焼けに向かって歩いている時ふと後ろを振り返ると、ずいぶん影が長くなっている。
昼間どんなに暑くても秋は近づいてきていて、夏の終わりを思うとわけもなく寂しくなった。
ほんの少しだけれど。


「よう。今帰りか?」
聞きなれた声に振り返ると、同じクラスの三井が立っていた。
部活後なのだろうか、学校指定の黒いズボンの上はTシャツ一枚だ。
夕日を受けてうっすらと橙色に染まっている。
「三井、部活は?帰るの早くない?」
「今日は体育館が使えなくて、外練だったからな。ランニングとフットワークと筋トレじゃあ、そう時間かかんねえよ」
三井はにかっと笑いながら言った。
そしてあたしの隣に並んで一緒に歩き出した。
三井の家がどこかなんて知らないけれど、きっと同じ方向なのだろう。


「もう夏も終わるねえ」
少ししみじみしてあたしが言うと、三井は
「そうか?まだ暑いじゃねえか」
と言う。
「だってだんだん日が短くなってるし、影も長くなってきたし。夏はまだ続くのかもしれないけど、終わりは近づいているんだよね。夏の終わりって何だか寂しくない?春の終わりとか冬の終わりは次の季節に向けてむしろ何だかやる気が出る感じ」
「秋の終わりは?」
「秋と冬ってあたしの中じゃ一続きなんだよね。秋が深まったらいつの間にか冬、みたいな。夏の終わりだけ何だか別物」
「そんなもんかぁ?そんなん言ったらどれも一続きになるんじゃね?」
全く、ちょっと乙女チックでデリケートな話を三井相手に話したあたしがバカだったのかもしれない。
この男に、あたしが感じているこの微妙な雰囲気が伝わるなんて思っていたわけじゃないけれど。


「お」
そういった三井の視線の先には、浴衣を着た保育園児くらいの女の子が、下駄をカラコロと鳴らして歩いている。
それを柔らかい視線で見つめるのはおそらくその子のおばあちゃん。
「お祭りがあるんだぁ。知らなかったー」
「ちょっと寄ってみるか?お前祭りとか好きそう」
「ホントに!?あの雰囲気っていいよねえ。行きたいなあ」
「じゃあ行くか。リンゴ飴くらいならおごってやってもいいぞ」



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