short

□pray
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濃いオレンジのあのボールを放るように柔らかく、君に触れることができたなら。



pray



何も求めなければ。


何かを失うこともなかったのだろうか。


思うようにいかないもどかしさを持て余さなければ。

君を失うこともなかったのだろうか。





あの時の俺は。

うまくいかないことばかりで。

一度に色々な事をこなすほど器用にはなれなくて。

俺のベクトルは一方向にしか向かわせることができなくて。




俺の目にはリングしか映っていなかった。

俺の手はオレンジのボールしか掴めなかった。

俺の足は、コートでしか駈けることができなかった。




自分ではうまく取り繕っていたつもりでも。
いや。
俺は決して取り繕うだなんてそんなつもりなかったんだけど。

それを含めて。



君は…。
全て分かっていた。




失って得たものも、確かにあるけれど。

それでも。
失ってしまった君の大きさにはとてもかなわなくて。



胸に空いた大きな空間は。


…まだ、到底埋まりそうにない。




いつか。

この胸の大きな隙間が埋まる日が来るのだろうか。


幼すぎた自分を。


ありのままに認められる日がくるのだろうか。




俺は、ただ、祈るよ。


傷つけ、失うことになった君の幸せを。





君を縛り付けるほど利己的にはなれない。


君を突き放すほど、自分の気持ちを無下にはできない。


君もバスケも大事にできるほど、器用になれない。




そんな矛盾だらけの俺のそばで。
例え一時でもでも安らぎをくれた君の、幸せを。


END



 

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