short

□be incompatible with
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掴まれた腕が
鋭い視線が
低い声が

あたしの心に、痛い。



be incompatible with



そもそも、根本的に違っていたのだと思う。
いくら悪ぶったって、タバコの一つも吸えないし。
いくら素行が悪くなっても、根っからの不良にはなれてないし。
いくら喧嘩の場数を踏んでも、心底非情にはなれないし。

それでもあんたの周りには、いつもみんなが輪を作っていた。
……常に孤独を感じていたあたしとは、違う。




別れよう、と切り出せるような仲だったのかも分からない。曖昧なまま始まったあたし達だから。

もしかしたら、始まってなどいなかったのかもしれない。


それでも。
もう、会わない、とあたしが告げた時のあんたのその目が。
あたしの心を、あたしの決意を、惑わせる。




「何でだよ」

そんなところがやっぱり甘ちゃんだと思う。やっぱり何にも分かってない。
自分の立場も、あたしの想いも。
そこが、今でも愛しくてたまらないのだけど。

……あたしの想いなんて、これ以上自分が傷つかないための、自己防衛以外の何物でもないのだけれど。




掴まれた腕が、悲鳴を上げる。
そんなに強くあたしを想わないで。
鋭い視線が、胸を抉る。
そんなにあたしを傷つけないで。
低い声が、耳を侵す。
そんなにあんたをあたしに残さないで。




無理矢理に犯された唇が、身体が、心が、それでもあんたを求めて芯から熱くなる。
理性が崩壊した自分自身にいささか呆れながら、それでも本能に従えば、聞こえるのは甘い嬌声と、曇るような息遣い。
お互いを貪るように、求めるように、呼びあう、声。
……これが最後だと分かっているのだと思う、お互いに。




あたしは、ただ願う。
あんたは、自分の居場所をなくさないで。
自分の居場所を粗末にしないで。

そして。
自分の居場所がないあたしをこれ以上惨めにしないで。




あんたを想っていられる今のうちに。
この想いが、嫉妬と妬みに変わる、その前に。



END



 

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