short
□Conflict
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朝、自転車で切る風が何だかひんやりとして、昼間どんなに暑くてもやっぱり秋なんだなと思う今日この頃。
あたしはいつものように授業をサボり、屋上にいた。
サボるくらいなら休めばいいのになんて思いながら。
煙草に火をつけ、ひといき吸い込む。
細く吐き出した紫煙はあっという間に周りの空気と同化した。存在を主張する独特のにおいだけを残して、だけど姿はもう見えない。
まるであたしの中のあいつみたいだ、なんて乙女チックなことを考えていたら、後ろから声がした。
「禁煙しろよ」
振り返ると、三井がいた。
インターハイが終わった今でも、冬の選抜まで残ると日々部活に励む男。
「運動選手に煙草の煙はご法度でしょ。あっち行きなよ」
あたしは、手で三井を追い払う仕草をした。
本当はそばにいて欲しかったけれど。
そんなあたしの言葉を無視した三井はこちらに近づくと、唇からタバコを抜き取った。三井の指があたしの唇に少し触れた。
三井の匂いと一緒に、煙草の灰が少し、風に舞った。
「何すんのよ」
まだ火をつけたばかりの煙草をとられた事に対する少しの苛立ちと、思いがけず三井の指に唇が触れたという事実に、声が少し上擦っていたのが自分でも分かった。
三井にもばれただろうか。
「没収。何せ時代は健康志向だしな」
そういうと三井は煙草をコンクリートになすりつけ、配水管の隙間にぽとりと落とした。
何て奴。
ちょっと、ポイ捨てなんてしないでよ、と言おうとした半開きのあたしの唇に、三井のそれが柔らかく触れた。
三井は、煙草くさ、と苦笑いして、
「次見つけたら、センセーに言うかもなー」
と言った。
そうして、何事もなかったかのように屋上から出て行った。
……何しに来たんだ。
あたしは、三井と煙草の匂いに包まれながら、よく働かない頭でそう思った。
そして、
「…禁煙しよっかなー」
と、心にもないことをつぶやいた。
Conflict(葛藤)
でも、アイツのバスケの為なら、本気で考えてもいいかな。