short

□こんなはすじゃなかった
1ページ/1ページ


結論から言うと、あたしは三井の事なんか好きになるはずじゃなかったし、三井とあの子が一緒にいるのをみてどす黒い感情を抱くはずじゃなかったし、一人でもやもやした気持ちを持て余すはずじゃなかったし、三井なんかのために勉強も何もかも手に付かなくなるなんて予想もしてなかったし、泣くはずでもなかった。
三井があたしに好きだと言ったあの時あの瞬間まで、あたしは三井の事をそういう対象として意識したことなんてなかった。たまにムカつくけど根はイイ奴で、本音で話せる数少ない男友達の一人で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
告白を断ったあたしに、今まで通りでいてくれよ、なんてちょっと気まずそうにだけど言ってくれた三井に心底ほっとしたのだ、あたしは。
ところが。
今のあたしときたら三井が好きで好きで、三井と、三井に告白して最近付き合い始めたあの子を見るだけでもう自分で吐き気がするくらい醜い感情が沸き上がって、それをどうすることもできない自分自身を持て余しているし、そのせいで(まあそれだけじゃないかもしれないけど)勉強だけじゃなく大好きなドラマもあのアーティストの新曲にも興味が湧かないし、ただ三井の事を考えるだけで、正確には三井への報われない想いを抱えた可哀相な自分を思うとそれに無性に泣けてきて。
別に悲劇のヒロイン気取るつもりなんて更々ないんだけど。
一体三井のどこがそんなにいいかなんて自分でもよく分からないし最早そんな事どうでもいい。
ただあたしは三井の事がこの上なく好きで、でも三井には彼女がいて、あたしは心が血飛沫をあげようとも三井の側にいるために友達を演じ続けるだけの事だ。
無くして気付くなんてあきれるほど陳腐な恋かもしれないけど、今のあたしには唯一無二の恋。




こんなはすじゃなかった



でもきっと三井に好きだと言われたあの瞬間に戻れても、愚かなあたしはきっと三井の気持ちに応えない。だって失ってからじゃないと気付かない。






END





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ