short

□make progress
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元々、喧嘩は嫌いだった。
その他大勢に埋もれるような外見のおかげで上級生や他校生に目をつけられることなんてなかった。
そりゃ冗談でどつき合うことはいくらでもあったけど、本気でぶっ殺してやると思うほどムカつく事なんてめったになかったし、あっても我慢できた。

人と殴り合って蹴り合って怪我をして、バスケができなくなるなんてごめんだった。


*


バスケ部から離れて学校から離れて、ふらふらと時間を潰すようになった。
学校に行く意味がなくなった。
することがなくなった。

俺の存在意義もなくなったような気がしていた。

バスケをしていた頃は全然足りなかったのに、今は時間が経つのが驚くほど遅い。
余計な事を考える事が増えた。


*


いつものようになかなか過ぎない時間を潰していたある日、生まれて初めてカツアゲに遭った。
梅雨入り前の、よく晴れていて少し汗ばむような日だった。

全てに苛々した。
バスケ部も学校も、抜けるような空も高めの気温も、なかなか過ぎない時間も俺をカツアゲのターゲットにした目の前の卑下た男も何もかも。

気がついたら俺はそいつの襟首を掴んで殴り掛かっていた。
殴り方を知らない俺の拳が激しく軋んで痛んだが、そんな事はどうでもよかった。
殴り返されて目の前に火花が散り一瞬意識が飛んだが、そんな事はどうでもよかった。
とにかく苛々していた。むしゃくしゃしていた。




「もう止めときなよ、三っちゃん」
俺に声をかけたのは徳男だった。徳男はいつからか周りに不良だと呼ばれるようになっていたが、俺にとってはそう呼ばれる前から今でも変わらず気を許せる仲間の一人だった。俺の手が止まった。
俺をカツアゲしようとした男は、ふらふらになりながら逃げていった。どうでもよかった。



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