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□ある夏の日の話
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「あー腹減ったなー」
空には少し欠けた月、と星。
時刻は夜の9時過ぎ。
「何か奢って下さいよ、先輩」
少し先を歩く、着替えとタオルしか入ってなさそうなカバンを下げた宮城が言う。俺も人のこと言えた義理じゃねーが。
「お前こんな時ばっかり先輩とか言うなよ」
「気分はラーメンすかね」
「何で俺が奢る方向で話が進んでんだよバカヤロウ」
「後輩がかわいくないんすか?」
「お前のどこがかわいーのか教えてほしいぜ」


いつもの帰り道。
部活帰りのオレ、宮城。
インターハイが決まってから、帰る時間が遅くなった。


「にしても今日も疲れたぜ。赤木のやつ張り切りすぎだろ。あいつ前世はマジで野生のゴリラなんじゃねーの?」
「まーダンナっすから。にしても体力ないっすよね、三井サンは」
「うるせえよ、殴られてーのかテメーは」
「だって本当の事だし」


部活に復帰して一ヶ月と少し。
いつの間にか俺は、あんなに目の敵にしていた後輩と毎日一緒に帰るようになっていた。




*




宮城の何もかもが気に入らなかった。
人より茶色い髪色も、片耳だけのピアスも、チャラい外見とはうらはらにバスケ部のホープだった事も何もかも。

中学三年間バスケに全てを賭けた俺の末路はこんなんで、中学時代、チャラチャラと程々適当にやっていたように思える宮城が期待されていると思うと、悔しくてやり切れなくてムカついて腹が立った。あいつを見るだけで言いようのない怒りを感じた。あいつの全てをブッ壊したくなった。


思い知らせてやろうと思った。


俺のせいで宮城は病院送りになった。まあ俺もこいつのせいで入院するハメになったのだが、とにかく宮城はバスケからの長期離脱を余儀なくされた。
気に入らない後輩を潰して、更に俺と同じような目に遭わせることができた。
俺の気持ちがきれいに晴れたわけじゃなかったが、抑え切れない激しい怒りは幾分おさまっていた。
これで宮城も俺みたいになればいいと思った。


ところが。


退院した宮城はすぐにバスケ部に復帰した。
退院したと聞いて向かった体育館裏で見つけた宮城は、涼しい顔でバッシュなんか履いてやがった。
アイツは、俺のようにはならなかった。


…宮城の何もかもが、気に入らなかった。




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