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□直列繋ぎ
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花道が、学校に、来ない。




直列繋ぎ




高校最初の夏休みが終わって三日目。
見慣れたはずの赤い頭が、まだ教室にない。
遅刻しても何しても、基本的に学校を休まない花道。
花道が学校を休んだのは、あたしの記憶ではインターハイ決勝リーグ1試合目の後だけだ。
もしかしたら、夏休み中あの時みたいに何かあったのかもしれない。





「ねえ」
あたしは窓際の席でグラウンドを眺めている洋平に声をかける。
「んー?」
「花道、なんかあった?学校来てない」
「ああ、お前知らないんだっけ?」
やっぱり何かあった?
「花道、今入院中なんだよ」
「入院!?花道どっか悪いの!?ケンカか何かした!?」
すっかり落ち着いたと思ってたのに、入院なんて…。




「違う違う」
よっぽどあたしがヘンな顔をしていたのだろうか、洋平があわてて手を振った。
「アイツ、広島の試合で怪我してさ、背中?」
「怪我!?入院するほどひどいの!?もしかして手術とかしなきゃいけないわけ!?」
「お前人の話は最後まで聞けよ」
食ってかかるあたしに洋平が苦笑する。
「詳しい事はオレもよく分かんないんだけどさ。リハビリしてるぜ、もう」
リハビリという言葉に、少しほっとする。
少なくとも、絶対安静というわけではないらしい。










よく考えたら、あたしは花道のことなんて自分で思っているよりもずっと何も知らない気がする。
あたしが花道に関して知っていることといえば。
学校は休まないけれど授業中は寝ていること。
見た目ほど悪いやつじゃないということ。
バカみたいに食べるということ。
頭が劇的に悪いということ。
人間想いだということ。
始めた動機はどうあれ、今はバスケットに懸けていること。

…結構知ってるじゃん。





*





「おー、やっぱりここにいたか」
体育館裏のコンクリートの上に座っていたあたしに洋平が声をかける。
「花道の事、言わなくて悪かったな。余計な心配かけちまうかと思ってよ」
「何も分からないほうが余計心配だっての」
「そーだよな、わり」
そう言って、あたしの隣に腰かけた。
洋平は何でもお見通しだ。
あたしの秘密の隠れ場所も。
あたしが花道をどれだけ心配したかも。
花道に対するあたしの感情がが恋ではないけれど友達に対するそれとも違っていることも。
バスケに打ち込む花道に、嫉妬のようなもやもやを抱いていることも、全部。
それがちょっと、悔しい。


「花道なら、心配いらねえよ」
空を見上げて洋平が言う。
「一回だけ行ったんだけどよ、病院。ちょうどリハビリ中でさ」
「うん」
「オレ、リハビリなんてやったことねえしどのくらい大変かなんてよく分かんねえけど」
「うん」
「アイツ、すげえよ。なんっつーか、すげえ」
「うん。」
「だから、心配いらねえよ」
「…うん」






「なーんか、直列繋ぎみたい、バスケに対する花道って」
うーん、と大きく伸びをしながら言う。
「直列繋ぎ?」
「そ。直列。ありったけの電池?それを直列に繋いで短い時間でも精一杯輝こうとしてるみたい。ピカーって。思いっきり」
「輝くなんてたいそうな表現だな」
「ま、ね。でも何かそのくらい精一杯って感じ」
「そうだな」
「あたしは何事にも並列だなあ。光は弱弱しいのよ、で、途中で電池切れたら取り替えっこしながら長ーく光ろうとしてる。何かちょっとズルイね」
「何で?どっちもいーじゃねーの」
洋平は、本当に、当たり前のように、そう言った。
「直列だろうが並列だろうが、それが自分の精一杯ならいーじゃねーの。どっちも正解だ」
そう言って、
「高宮は食いモンには直列だし、勉強には並列どころが線が繋がってねーしな。あ、それはオレ等も一緒か」
と笑った。






あたしの汚い心を否定しないていてくれてありがとう。
花道もあたしも、そのままでいいって言ってくれてありがとう。
花道、ひがみっぽい事ちょっとでも思っちゃって本当にゴメン。
早く学校に来るといいな。





あたしは安心して洋平に依りかかりながら、素直な気持ちでそう思った。



END





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