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□幸せのきりとり
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「お腹すいたあ」
「おー」
「明日からテストだねえ」
「おー」
「またカンニングするのー」
「おー」
「だめだよー」
「おー」
「見つかったら大変だよ」
「おー」
「わーひま」
「おー」

「あーもう結婚できるんだよ私」
「・・・おー」

「・・・今の間なにっ?」

キラキラと目を輝かせ覗き込むようにして見つめてくる和紀を心底うざったく思う。
そして同時にかわいいと思ってしまう自分もなかなかいけてない。

「私もう17だもん」
「ふうん」
「結婚できちゃう」
「・・・どんな奴と結婚すんの?」

「そんなの決まってるじゃん!」

ゆったりと歩く俺のすぐ隣で忙しなく動き回る和紀は声を上ずらせながら楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。
結婚だなんて、まだまだ全然先のことだと思っていたのに。
もうコイツは俺をおいて結婚できる年齢なのか。変な男につかまるんじゃねえぞ、と一人変な男の顔を描きもやもやする。
てか、なんつー話してんだよ。ガキか。


「頭がよくてー」
「おー」
「優しくてー」
「おー」
「かっこよくてー」
「おー」
「こみゅにけいしょん能力があってー」
「・・・おー」
「笑顔が素敵でー」
「・・・」
「英語がペラペラな人!」
「・・・」

頭に描いた"変な男"がニヤリと俺に笑う。
最悪だ。コイツはなんつーことを。
すっかり青ざめた顔でガンガンと痛み出した頭を押さえつける。
そんな俺の様子を至極楽しそうに見つめる和紀にさらに頭痛が増した。

「なんであんな男・・・」
「だってかっこいいじゃん、ハスミン」

あんな胡散臭い系男子が好みなのかお前、と信じられない顔をする。
なんだってそんな楽しそうなんだ。

「ありえな」
「ハスミンそんな胡散臭い系男子?」
「おー」
「んまあ完璧だよね」
「・・・」
「それに比べて圭介なんて笑顔もないしコミュニケーション能力もないし優しくもないよね」
「・・・はあ」
「うそだよー」
「・・・」
「私が結婚したい男の人はね、」

クイ、と制服の袖を引っ張る和紀につっれて立ち止まる。
ちっさい背で少しでも届くようにと爪先立ちになりながら俺の耳元へ口を寄せる和紀はとても楽しそうに、幸せそうに笑った。


「早水圭介系男子、かな」

「馬鹿じゃねえの。」

そんなこと、言わなくても知ってるし。
ふふ、と笑う和紀に目もくれず前を見据え、彼女の小さな手を握ってまた歩き始めた。


END

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