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□引き留めて、抱き寄せて
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少女を見かけた。
話したこともない。クラスが離れてるためにすれ違うことも数えるくらいしかない。集会でたまに見かけるくらい。
探したってめったに見つけられないレア。
そのレアが、ちょこまかと気に食わない男の後ろを歩いているってだけでフツリと殺意が芽生え始めた。

「本当に私なんもやってないんです」
「わかってるわかってる。別に疑っちゃいないよ、ただ話聞くだけだから。な?少しだけでいいんだよ」
「・・・はあい」

ごめんな、と胡散臭い笑みを浮かべて少女の頭を優しくなでる蓮実に、気が付けば体は動いていて。


「?・・・ぁ、・・・え、っと・・・」

その細い腕をつかみ、引っ張れば驚いたように目を丸めこっちを振り返る川津和紀。
川津を挟んで目の前にいる男も驚いたように目を見開いたかと思うと取り直すようにヘラ、と笑った。

「なんだ、蓼沼。お前ら友達だったのか」
「えっ」
「・・・ちげえよ」
「?」
「・・・っち。なんでもねえ」

悟られているはずがないのに、なぜか、密かに感じた焦りがバレているような気がして居心地が悪い。
困惑したように俺と、蓮実を見比べる川津。
つかんだ腕を離して川津を上から見下ろす。何やってんだ俺は。
らしくねえ。クルリと体の向きを反転させて背中を向けて廊下を歩きだす。
まるで逃げてるみてえ。嘲笑うかのような蓮実の、嫌らしい笑みがふと脳裡に浮かんで思いっきり顔を顰めた。



「・・・」
「?ほら、和紀いくぞ」
「あっ・・・はい」
「いろいろと話さなきゃいけないことがあるんだ」



-
廊下の角を曲がり足を止める。
引き留めた手が、妙な感触を残している。
誰かを殴った時とは違う、妙な感覚。なんていうか、心地よい。

「・・・っに、やってんだ」

考えもなしに動いて、馬鹿か。
困ったように驚いたように俺を見上げる川津の瞳が頭から離れない。
アイツと川津が話をしていて、焦りとまた他の何かを感じた。いうなれば、恐怖。
なにに恐怖してるのかなんて、わからないけどでも気が付けば身体は勝手に動き引き留めていた。
なにに、恐怖した。
必死に頭を巡らせるがわからない。なんだ、どれだ。答えが見つからない。
・・・やめだ。
一つ舌を打って、階段をゆっくり上がっていった。




翌日、
あいつが行方不明だって聞かされた


『引き留めて、抱き寄せて・・・それくらいしなきゃ好きな女なんて守れないぞ?蓼沼』
『・・・てめぇ・・・蓮実!!』

握った拳は、小さく震えた。


END

消化不燃焼!


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