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□それも、ありかもしれないね。
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「同性恋愛(ホモ)ってダメなの?」

校庭から誰かの声が聞こえてくる。
体育倉庫の中、驚いたように目を丸めるハスミに唐突に尋ねればハスミは片付けていたボールをその場に置いてふむ、と考え始めた。

「世界的にはあまり受け止められていないのが現状だな。生産性がないだとか汚らわしいだとか、いろいろな考えが・・・」
「違う、そうゆうことを聞きたいんじゃないんだ」

俺は、ハスミンの意見が聞きたいんだ。
眉を寄せながら笑えば、ハスミは何を思ったのか俺のすぐ目の前まで近寄るとまるで女にするみたいに俺の頭をなで始めた。
いや、女にもこんなにやさしく撫でているのは見たことがないかもしれない。
いつもはもっと荒々しくかき混ぜるようにしていた。
励ましているつもりなのだろうか。
言葉でも見つからないのだろうか。
わかっているよ、と言いたいのか。
・・・どれも、当てはまらないのだろう。ハスミは、何を考えているのだろうか。


「・・・ハスミン」
「ああ・・・いいんじゃないか?恋愛は自由だ」
「・・・そっか」

黙ってハスミの手を受け入れる。
ハスミならきっとそう言うと思っていた。
恋愛は自由。個人の自由だって。もちろん予想通り。わけのわかんない女たちの言葉を借りて言えば、生徒の一番欲しい言葉をくれる。それがハスミンなんだって。


「んじゃあ、さ。」
「・・・ん?」
「ハスミンは、いける?男」

ハスミの逞しい首へ腕を回す。
身体を密着させて、背の高いハスミの口へ唇を寄せた。

「stop・・・Mr.川津」

冷静に、顔色を変えずにシィ、と俺の唇に指を押し当てるハスミ。
いつになく真剣な目をしたハスミは、それでもまだ教師の顔をしていて。

・・・やっぱ、そう簡単にはいかないわ。てか、俺なにやってんだろ。
数十分前の出来事を思い返して、心の中でため息を吐き出す。先ほど友人である早水圭介と交わした罰ゲームという名の約束は下劣なものだった。
”蓮実聖司を誘惑”だってさ、馬鹿じゃねえの。
んまあ考えたの俺だけど。

「・・・ごめ、俺・・・何いって、」
「・・・」
「あ、っと・・・教室、もどるわ・・・ごめんハスミン、忘れて」

無理だわ。この空気耐えられない。俺、主導権を持って話を進めるの苦手。
慌てて、早口に言葉をまとめてハスミの鍛えられた胸板を押して離れる。思っていたよりも固い筋肉に内心ギョっとするも、今はそんなことどうでもいいわ。
一回冷静になれば次々と襲ってくるのは後悔、羞恥、吐き気。早くこの場から逃げたくてしょうがない。
まさに名演技を残して体を反転させる。閉じた体育館倉庫の扉に手をかけて、あー俺まじ天才かも、とニヤリ口元に笑みをこぼした。


「ちょっと、和紀」
「ハスミ・・・」

グイ、と腕を引っ張られ身体がよろける。
予想もしなかった出来事に目を見開いて、俺の体を支えるハスミを振り返った。

「ハス、・・・ミ、」
「お前ならアリ・・・かもしれないな」

垣間見えた男の顔。
グシャ、と頭を乱暴に撫でられ、開いた口がふさがらなかった。


END

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