修行
□06.掃除用具入れ
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準備をしていた手が止まり、身体も思わず固まった。
無言を貫いていると、椅子から立ち上がりながら、光は言葉を続けた。
「正確には、先週の水曜あたりから。何でなん。俺、紫音に何かしてもうた?」
「ひ、光には、関係ないでしょ。ほら、あとは職員室行って、渡すだけだから、部活早く行きなよ」
必死に話を逸らし、話題を変えようにも、光にはいつも敵わない。
「話逸らそうとしても無駄や。それに今日は部活オフや」
言いながら、光は私を教室の隅の掃除用具入れの方へと追い込むように迫ってくる。
光の顔を見てられるほどの余裕はなくて、光から後ずさって、距離をとるのが精いっぱいだった。
私の心臓はうるさい位に鳴り響く。
理由は目の前の状況が嬉しいのと怖いから。
私が後ずさっては、光がその距離を詰める。
そんなことを繰り返していると、ついに、私の背中が壁というか、教室の隅にまで追い詰められてしまった。
「なぁ、紫音…」
光の声色が変わった。哀しいような声色だった。
はっとして、顔を上げると、光は苦しいような痛みをこらえているような顔をしていた。
「ひか…」
「なんでなんや?」
「こ、この前、光が告白されてるの偶然聞いちゃって…」
光の押しに負けた私は、ポツリポツリと、理由を話した。
「光が好きな子がいるからって…」
「それ、お前のことなんやけど」
「…え?」
「やから、好きやのはお前のことや!」