修行
□06.ガラス越し
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「紫音…」
今、俺は面会謝絶の病室の前で一人、ガラス越しに寝ている紫音を見つめていた。
《ガラス越し》
紫音は、俺の初めての彼女で男子テニス部のマネージャー。
ちょっとぬけてることもあるけど、やることはちゃんとやる。いつも笑顔で
でも、本当は寂しがりやで、恥ずかしがりやでもあって…可愛い彼女。
そんな紫音がなんで病室で寝ているのかというと、数時間前にさかのぼる――
今日は紫音と久し振りのデートをしていた。
いつもハードな部活があって、放課後は紫音と一緒に帰ることも都合が合う時ぐらいしかできない。
久し振りに部活が休みになった今日は、2人で遊園地に来ていた。
久し振りのデートに紫音は終始ハイテンションで次から次へと色んな乗り物に走った。
ジェットコースター、コーヒーカップ、観覧車、メリーゴーランド…
俺は時折、紫音の笑顔が消えていることを知ることはなかった―――。
帰り道2人並んで夕焼けに染まった道を歩いていた。
交差点に差し掛かった。
横断歩道の途中で紫音は足を止めた。
それに気付いた俺はすぐに振り返った。
『リョーマ、私のこと好き?』
どこか、寂しそうな不安そうな表情の紫音にそう言われた瞬間、嫌な予感がして、紫音の元へと駆け出し、手を伸ばした。
だが、その手は何も掴むことなく空を切った。
―――紫音へと突っ込んだ車によって。