黒蝶は鮮青の風に吹かれる
□筐底に沈む水泡
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深緑の木々が涼しやかな風を運んでくれるといえども、強い日差しと整備されていない道は体力を削り、確実に疲労を蓄積していった。
遠い視界の先に威厳をもってそびえたつ大鳥居の姿をようやく目に留めたとき、長い道のりを己の足一つで歩み進めた達成感を胸中に抱き、それまで重石のように垂れ込めていた疲労が薄れていったは当然のことであろう。
残された道を縮めるように皆が足早になる中、突然一つの影が足を止めた。
「どうしたんですか敦盛さん?」
優樹が目にしたのは、困惑した表情を浮かべる敦盛であった。
それもやがて納得したように普段通りのものに落ち着く。
泰然とした中に、困ぱい混じりの気落ちした様子がうかがえるのは気のせいか。
「……どうやら私はこれ以上進めないようだ」
「入れない……?」
悠々と先頭を歩いていたヒノエは振り返ると、その眉をひそめた。
普段のあっけからんとした空気をぬぐった表情で、じっと敦盛を見つめる。
「……もしかして、はじかれたのか」
独り言のつもりだったのだろう。囁くほどの小さな言葉であったそれを耳にとらえた敦盛は、そのようだな、とどこか他人事のように呟いた。
「……大社には強力な結界が張られている。土地そのものが磁場となってもとより神聖な空気に守られている。
重ねて人の手によっても守りを強めている。最近は怨霊も増えているからことさらに。……悪しきもの、穢れを内へ入れないように」
なにか心積もりするところがあったのか、敦盛はふ、と笑みをこぼした。
「穢れ、か……そうだったな。……穢れた者は神域に嫌われ拒絶される」
もとより乏しい彼の表情に浮かぶ笑みは物珍しきものであった。
そこにあるのは心より映せるものではけっしてない。哀切か、自嘲であったのか。その本心を知ることは叶わない。
「あーもしかして怨霊と戦ったときに穢れをもらったのかな?」
素っ頓狂な響きをもって景時の声が広がる。
ゆるやかに敦盛が首振ることに、どのような意味がこめられていたのか。
ある者には必然を受け入れるように、ある者にはあきらめたかのように、ある者には否定の意思を見せるように見えたことであろうか。
「……入れぬのならば仕方あるまい。私は外で待っていよう」
「そんな、敦盛さんだけおいていくことなんてできませんよ。何とか方法を考えましょう」