黒蝶は鮮青の風に吹かれる

□休息
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優樹と望美は、二人そろってリズヴァーンのもとへやってきた。


「リズ先生、今日も剣術の稽古に付き合ってくれませんか?」


二人の手にはすでに木刀が握られており、すでにリズヴァーンが承諾することを前提としていた。


「わかった」


いつもなら、そう言ってくれるのだが、今日は違った。

リズヴァーンはただ静かに二人を見つめるばかりだった。

何も言わない彼に、二人は首をかしげた。


「……先生?」


望美がリズヴァーンをうかがうように見ると、彼は静かに話し出した。


「毎日の鍛錬を心がけることはとても良いことだ。
だが、焦りの中で無理に押し進めようとしてはいけない。
いきすぎは破壊を生む。
時には休息をとることも必要だ」

「……じゃあ、今日は見てくれないってことですか?」


納得できない顔をする優樹に、彼はやはり静かに答えた。


「お前の気持ちはわかる。だが、真っ直ぐに突き進んでいくことだけが道ではない。
時には立ち止まり、己の心を見つめることも大切だ。一度離れてみることで、わかることもある」




❀❀❀・❀❀・❀・❀❀・❀❀❀




優樹と望美は縁側で足をぶらつかせていた。


「どうしよっか。ひまになっちゃったね」

「ほんとだね……」


二人はぼんやりと空を眺めた。

今まで剣術の稽古が一日の大半を占めていたので、それをやらないとなると、だいぶ時間を持て余すことになる。


「休むことも大切、か。それもわかる気がするけど……」


早く花断ちを習得したいのに。


そんな焦りが優樹の胸を占めていた。
きっとそれは望美も同じであろう。


実際のところ、二人は粘ったのだ。
稽古に付き合ってくれませんか、と。

だが、リズヴァーンの返答は相も変わらずで、ただ焦ってはいけない、と言うばかりだった。


だめなら一人でも練習するか、と優樹が内心思っていると、リズヴァーンはあの何もかもを見透かしているような瞳でじっと見つめてきたのだ。


まさか、先生は人の心を読めるのか、いやそんな馬鹿な、と優樹は思った。

だが、彼の瞳には気圧される何かがあったのだ。


「………………」

「………………」


根負けしたのは優樹の方であった。

優樹がその視線に耐えかねて、心の内で、今日は大人しく休もう……と思うと彼の視線は急に柔和になったのだ。


リズ先生は人の心が読める、という憶測がひそかに優樹に芽生えた瞬間だった。






結局、二人は今日の稽古を休むことにしたのだった。


「休むって言っても、何すればいいのかな……」

「今してることすればいいんじゃない?」

「……何もしてないよ」

「それが休むってことでしょ」


優樹は返事をしながらあくびを噛み殺した。

空を眺めているうちに、のほほんとした気分になってきた。

ごろり、と優樹は庭に足を投げ出しながら濡れ縁に上体を倒した。


「…………優樹、ひまだよ」

「そうだね」


優樹が目を閉じながら答えると、望美は餌を求める子犬のような表情でちらりとその顔を覗いた。

だが、優樹がその視線に気づかないのを見ると、空を見上げ、庭を見回して、再び優樹を見た。


「優樹〜」


望美は耐え切れなくなったというように、ゆさゆさと優樹の身体をゆすってきた。

優樹は軽く眉を寄せて、片目を開けた。


「……どうしたの」

「…………ひまなのよ」


優樹はため息をつき、起き上がった。


「……ひまなら朔の所とかに行ってみたらいいんじゃない」


望美は口をとがらせた。


「…………優樹が冷たい」

「……私に何を求めるの。朔の方がこの世界のことに詳しいから、おもしろいこと知ってるだろうって思っただけだよ」


「あら、二人ともこんなところにいたの?」


そこにちょうど話にしていた朔が現れた。


「朔〜」


望美は朔に抱きつかんばかりの勢いで近づいていった。

そして、稽古が潰れてひまだということを話した。


「それだったら、舞の稽古をしてみない?」

「舞?」


望美が首をかしげると、朔はええ、と答えた。


「舞だったら私も教えることができるのだけれど。
ごめんなさい、他に思いつかなくて」

「すごいね朔。舞ができるなんて」

「できると言ってもたしなみ程度のものだけれど……。優樹もどうかしら?」


優樹は考えるように空を見た。


「うーん、そうだな……」





→「……やっぱり遠慮しとこうかな」(弁慶ルート)


→「二人の舞を見るだけなら……」(友情ルート)





 

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