黒蝶は鮮青の風に吹かれる

□結界の先
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「ここです、景時。お願いできますか」

「はいはい〜。まかせといてよ〜」


本当に頼んで大丈夫なのかと言うくらい軽い口調で景時は弁慶の言葉に答えた。


「それじゃみんな、危ないから離れててね」


細長い銃を構える景時を、優樹たちは見守った。


(陰陽術使うんじゃないの……)


思い描いていた陰陽師像とは違っていたことで、優樹と望美は期待外れな心持ちででその様子を見ていた。


ややがっかりとした二つの視線を知らないまま景時は引き金を引いた。

その瞬間、銃声音とともにガラスを割ったときのような音が鳴り響く。


「うん。これでいいんじゃないかな〜」


彼は銃を肩にかけると、前へ進んでいった。
すると、さきほどまで結界で通れなかったところが通れるようになっていた。


おお、と優樹と望美は感嘆の声を漏らした。


「景時、ご苦労様です。おかげで先に進めるようになりました」

「いや〜、いいっていいって。役に立てる時に立っとかないとね」


弁慶と会話する景時に優樹は近づいていった。


「景時さん、今のって陰陽術を使ったんですか?」


興味津々といったように優樹は景時の持っている銃を見つめた。


「うんそうだよ。これを介して術を発動させたんだ」


景時が銃をなでるのを見て、優樹はあれ? と思った。


(……そういえば、この時代に銃なんてあるの?
火縄銃が日本に伝来したのって戦国時代のはずじゃ……。
それにこれって、火縄銃とも違った……)


優樹が考え込んで銃を見ていると、景時はそれを違ったものとして受け止めたようだった。


「もしかしてこれが珍しい?」

「え? ああ、そうですね」


優樹が自分の思考から戻って返事をすると、彼は少し得意そうな顔をして説明してくれた。


「実はこれ、自分で作ったものなんだ。
普通だったら術を発動させるには印を結ばないといけないんだけど、これを使えばここを引くだけで術が発動できるんだよ」

「自分で作ったんですか?」


優樹が驚いた顔で見ると、彼は照れたように笑った。


「まあ、そうたいしたことでもないけどね。
単なる趣味みたいなものだし」


しゅ、趣味でそんなすごいもの作れるものなの……。


優樹が愕然として言葉を失っていると、いつのまにか譲と望美も周りに集まっていた。


「……この時代にこんなものを作るなんて……すごいですね」

「この装飾とかも自分でですか? 細かいですね」

「え〜いやそんな……」


二人にも褒められて、景時はまんざらでもないように頭を掻いていた。


「あまり兄上を持ち上げてはいけないわよ。
すぐ調子に乗ってまたおかしなもの作るんだから」

「さ、朔〜そんなことないって」


やはり朔は景時に対していささか手厳しいようであった。
景時の方が年上であるはずなのに、朔の方が立場が上のように見える。

だが、厳しい言い方をされてもどことなく嬉しそうな顔に見えるのは、彼が朔を溺愛しているからであろう。


この人はほんとに朔が好きなんだろうなあ、というのが見ているだけでわかってしまった。
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