短編小説

□汚部屋掃除
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「ちゃんと部屋を掃除しろ」



大声で注意され、弁慶はうるさそうに眉をよせた。



「なんですかいきなり……」



九郎はしかめっ面のまま弁慶を睨んだ。



「いきなりではない、前々から言っているだろう。
お前の部屋はいくらなんでも物が散乱しすぎてる」



「君の部屋は簡素すぎるくらいに物がないですよね。
うらやましいです、その空間を僕がもらいたいくらいです」


「これ以上物を集める気か。人のことに口出しをしたくはないが、事実苦情がきてるんだ」



「へえ、苦情ですか。それは気をつけなくてはいけませんね。
ですが、この屋敷は君のものではなく景時のものですよ。
そこに君が口を出すのもおかしな話だ」



「その家主から苦情だ。
この間、物を置く部屋をさらによこせと景時を脅したようだな。
自分では対処できないからと俺に泣きついてきた」


「…………」



優樹は沈黙した。

実をいうとさっきからこの場にいた。



用があって弁慶の部屋に訪れていたが、そこに九郎が突然現れ冒頭の言葉を放ったわけである。



口をはさめるような空気ではなく、優樹は身を縮めながら話を聞いていた。

……もともと物が足元を埋めていて、そうせざるを得なかったわけではあるが。





「優樹くんからも何か言ってください」


「えっ」



いきなり話題を振られ、びくりと肩をはねた。



「そうだ、お前からも何か言ってやれ。
この部屋のことをどう思う」



二人から意見を求められ、いやな汗が流れる。




「……えっと」



き、汚いっすよね。



と言おうとしたが、弁慶の顔を見ると何も言えなかった。



「き……」



口を開くが、弁慶の笑みを見ると何も言えなくなる。




この人笑顔の使い方間違ってる!!

笑顔は脅すときに使うもんじゃないっ!



「きた、き……きれ……。……き……汚い……というほどでもないと思います」




優樹はついに屈した。


九郎は、お前……という視線を送ってきたが、泣きそうになりながら首を横に振った。




無理です! 戦えません!!





「ほら、優樹くんだってこう言っているではありませんか」




素知らぬ顔でそう言う弁慶を九郎はねめつけた。




「汚いとまではいかない……とは言っても整理しなくていいとは優樹は一言も言ってないぞ」




やめてくださいよ! なにひとを間にはさんでバトル繰り広げようとしてるんですか!!




「優樹もこの部屋を整理したほうがいいと思うだろう」


「そんな風に無理やり意見を言わせるのは良くないですよ、九郎」



あなたがそれを言いますか。





「……せ、整理しましょう、弁慶さん」





弁慶の方を見ることはできず、うつむきながら優樹は呟いた。




「二対一だな」



九郎が笑った。




優樹は弁慶から強い視線を感じた。
だが、視線を合わせてはいけない。絶対に。
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