黒蝶はつがいの風にのる
□おいでませ
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「……それにしても、ここまできたら、今日こそ夢でとっつかまえて答えを聞くしかないんじゃないかな」
腕を組みながら優樹は頭をひねっていた。
「そういえば、意識的に夢を呼び寄せる方法があったような……」
どうやるんだっけな……と思い出しながら、優樹は穴の開いた銭を一枚取り出した。
「たしか、こうだったっけ」
床に銭を置き、両の人差し指をそえる。
目を閉じ、気を統一するように息を深く吸う。
「将臣さん、将臣さん、お願いだから降りてきてください……」
……って、あれ……。これって何かアブナイものを降霊する儀式だったような。
ヤバイやつ喚ぶからやっちゃいけないよ、って何かで、誰かが言ってたような、まあいいか。
「……なーんてね、こんなので夢を意図的に見れるなんてね」
ははは、と自分にあきれるように優樹は一人笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……まーたお前か。最近よく会うなあ」
「……それはこっちの台詞だよ」
またもや夢で将臣に会い、たがいに苦笑を交わし合った。
しかも夢を見ていると自覚している。
だが、今日は少しだけ違っていた。
いつもの夕焼け色の教室ではなく、明るい昼の光に包まれていた。
「さあ、将臣、今日こそ聞かせてもらおうか」
「……なーんだよいきなり。随分とぶっそうじゃねえか」
「……男の人が女の人に服をプレゼントする理由って何なの」
真剣な面もちで聞くと、将臣は数秒黙ってからぷっと吹き出した。
「あ、この、笑った!」
「だーってよお、お前しつこすぎ。別に軽い冗談のつもりだったのによ」
「冗談だったらさっさと言ってくれて良いじゃん!」
「わーかったよ、それはさ――……」
「え――」
突然、将臣の声にノイズが走り、聞き取りができなくなる。
めまいを起こしたかのように、景色もぐにゃりと歪みはじめる。
将臣も、驚いたように目を見開いていた。
頭の中で直接反響するノイズの中に、くすくすと笑う声が混ざり合っているような気がした。
「将臣っ――」
「だい……ぶかっ……」
将臣の近くに行こうとするのに、何かの力に阻まれているかのように近づけない。
びき、と音を立てて教室の床に大きな亀裂が入る。
揺れはじめた床に、思わず倒れそうになる。
「おい――!」
「将臣っ!!」
大きく口を開けた亀裂に身体が放り出される。
だめだ、死ぬ! と思うもどこか身体が軽い。
風を受けながら落下していくと、ばしゃんと音を立てて水の中に落ちた。
温度は感じなかった。
近くにあった梯子を伝うと、保健室の中へと出た。
「おーい! 将臣!」
上に向かって叫ぶも、青空を四角く切り取った天井しか見えなかった。
ああ、それにしてもさっきからノイズがひどい。
気分が悪い。頭の中で砂嵐が起こっているようである。
くすくすくす、と笑い声が聞こえ、優樹はばっと顔を上げた。
そこには、男の子なのか女の子なのかわからない、可愛らしい見た目をした子どもがいた。小学生くらいの年齢だ。
「お姉ちゃん、遊ぼうよ」
その子が首をかしげると、肩先で切りそろえた髪が揺れた。
「ね、質問があったら、僕、なんでも答えるよ。好きな人の気持ち? 好きな人の好きな人の名前? 女の人は、恋の話が好きだよね」
くすくすくす、と可愛らしい笑みが室内に満ちる。
「――男の人が女の人に服をプレゼントする理由って何か知ってる?」
言葉を吐き出してからはっと優樹は口を押さえた。――私はなんでいまその質問をした。
自分ではするつもりがなかったのに、気がついたら口が動いていたのだ。
「ふーん、お姉ちゃんはそんなことが知りたいんだ。――嘘つき」
「――え」