黒蝶はつがいの風にのる

□おいでませ
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「よお、また会ったな」


目を開けると、夕焼け色の光とともに手を挙げている級友の顔が映り込んだ。


「おお、また将臣の夢だ。……っすごい。私夢の中で夢を見てるって気づいている。とうとう明晰夢の能力に目覚めたのかな」

「明晰夢ねえ……ま、いいさ。それにしても、なーんでこうお前とまた会うんだろうな。お前そっちで何かあったか? 気にかかっていることとか」

「気になっていることって言われても別に……って、そうだ。将臣に聞きたいことがあったんだ」

「お、なんだ」


こほんこほん、と優樹はせきこんだ。


「あ、あのさ……男の人から服をプレゼントする意味って……なんなの?」


将臣は、一瞬黙り込んだ。かと思うとにやりと笑った。


「さあな、俺も知らねえわ」

「はあ!? だって自分で昨日言ったのに!」

「さあーてなんのことだか。お前夢でも見てたんじゃないのか?」

「なるほどね! ってそうだよ! 夢で聞いたんだよ!」

「ほら、な」

「いやいや、いまだってまさに見ているよ!」


はは、と机から飛び降りながら将臣は笑った。


「あ! こら逃げるな!」

「だったら追ってくるなよ」

「逃げるから追うんでしょ! ねえ、答え教えてよ! 気になるじゃん!」

「おっと、もうそろそろ夜明けも近いんじゃねえかな」

「え、ちょっと――」


優樹は逃がすか、と声を張り上げた。



「将臣!!!」



――はっと優樹は目を覚ました。


青みがかった薄明かりが外から差し込んできている。


「ま……また変な夢見た…………」


まったくなんなんだ……と思いながら優樹はまた眠りについた。






「…………」

「…………」


優樹は口に運んでいた朝餉をこくりと嚥下した。
向かいには同じく朝餉を食べている弁慶が。いつも通りの朝の風景である。

だが、だがなんだろう、この空気。


黙々と箸を運んでいる弁慶をちらりと見上げる。
いつもだったら何かしら会話が弾んでいるはずなのだが、今日、弁慶は一言も発していない。


今日はそんな気分なのだろうか。


少し気にかかりながらも、優樹は静かに朝餉を食べた。



「うーん、それにしてもなんなんだろうなあ、こう二日連続で似たような夢見るっていうのは」


将臣に関して何か気になることがあるのだろうか。
だが、無意識かで起こっているわけだから、わかるわけもなく。



「この世界での夢の意味、ですか?」


気になり弁慶にたずねると、先ほどよりも気むずかしい雰囲気が強くなった気がした。


「……相手が自分のことを強く思っている場合、その人が夢に現れる、とは言いますね。
夢に現れるということは、それだけ相手が自分を好いているということ」

「へえ、おもしろいですね。私たちの世界とは逆なんですね」

「逆……というと?」

「だいたい夢に誰かが出てくるってことは、自分がその人のことを考えているから、気にかかっているから、って私たちの世界では考えますかね。
まあ、夢なんて自分で好きに動かせないので、わからないですけれど」

「……夢を見ている人がその人のことを考えているから、か」


弁慶の顔からさらに表情が消えたことに、優樹は気がつかなかった。


「ほかに……意識的に夢を見る方法とかってありますか」

「……何か、見たい夢でもあるんですか?」

「い、え……ちょっと気になっただけというか」


吐息をつきながら、弁慶が立ち上がる。


「……さあ、僕もその手のことはくわしくないかな。……ちょっと今日も薬草を摘みに行ってきますので、君に留守をまかせても良いですか?」

「あ、それなら私も一緒に」

「いえ、今日は僕一人で行ってきます」


そのまま、背を向けて弁慶は支度をはじめた。
今日はやけに弁慶がそっけない気がして、優樹は困惑した。

なんとなく、朝から機嫌が悪いような。
だが、気のせいだろうか。


「いってらっしゃい……」


優樹はただその背中を見送ることしかできなかった。
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