短編小説

□ひと夏の怪談
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激しい雨音と、雷の音が聞こえてくる。

時たま雨の勢いが激しくなるのが、耳を澄ませなくともわかった。



「みんなで怪談やろうよ!」


和気あいあいと女だけで話をしていたなか、突然の望美の言葉に優樹と朔は目をぱちくりさせた。



「階段?」

「戒壇……?」


「怖い話だよ! こんなに雨が降ってちゃ外にも行けないし、夏と言えば怪談! こんな日にはうってつけだよ」



神子の大召集により、屋敷にいる八葉及びその他数名が一つの部屋に集まった。


集まった顔触れのなかに、本来ならこの屋敷に身をおいていない人物がいたため優樹はあれ、と声を上げた。


「九郎さんも今日来てたんですね」

「ああ、屋敷に戻ろうとしたらこの大雨だからな。しばらくの間はやっかいになる」


「ところで神子姫様、俺たちをこの部屋に集めて何をするつもりだい?」


ヒノエの言葉に、望美は少しもったいぶったような笑みを浮かべた。


「ふふふ、実はね――」



望美の説明を聞きおわると、九郎は眉間にしわを寄せた。


「一人ひとつずつ怖い話をする……? お前……いったい何の儀式をするつもりだ」

「ちがいますよ! 私たちの世界では夏になるとそうやって暑さをまぎらわすんです」

「まあまあ九郎、いいじゃないか。せっかく望美ちゃんが提案してくれたんだし。息抜きのつもりでやってみようよ」


景時の言葉になだめられ、九郎はむつかしい顔をゆるめた。
もともと、反対というわけではないのである。


「まあ……そうだな」

「じゃあ、話す順番どうしましょうか」

「一番手は望美?」

「ええっ私?」

「……いや、別に誰からでも良いと思うけど」


優樹の言葉にふむ、と望美は考え込んだ。


「私が言い出しっぺだもんね。じゃあ、私から時計回り……左手の人に順々にまわっていく形でやりましょうか」



こうして、大雨が降りしきるなか怪談話が決行された。
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