黒蝶は鮮青の風に吹かれる
□結界の先
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景時のおかげで結界もなくなり、一行はその先へと進んでいた。
優樹と譲は、最後尾で話をしていた。
「景時さんすごかったね」
「そうですね。火縄銃も伝来してないこの時代に、あんなものを作ってしまうなんて……」
「むしろ火縄銃よりも性能が良さそうに見えたよ。
陰陽術を使ってるってのもあるかもしれないけど……。
これって歴史を覆(くつがえ)す発明なんじゃない?」
譲はしばらく考えるようにあごに手をあてた。
「……やっぱり、ここは俺たちのいた世界とは違うんですね」
「? まあ、そうだね」
今さらともとれる譲の言葉に首をかしげながら返事をすると、彼は付け加えるように言った。
「最初は単に過去に遡(さかのぼ)っただけかと思ってたんですけど、ここはそもそも俺たちのいた世界の過去ではないんじゃないかって最近思ったんです」
譲の言葉に優樹も考え込んだ。
「……言われてみれば、私も過去に飛ばされたって思い込んでたけど……。
異世界って、過去って意味じゃなくて本当に異世界って意味だったってこと?」
今まで、異世界という言葉を過去に置き換えて考えていたが、それは間違いだったのだろうか。
「……おそらくそうだと思います。
そもそも平清盛がこの時代に権勢をふるっていること自体がおかしいんです。
怨霊として蘇ったのだとしても、俺たちの知っている歴史とは違います」
「そう……だよね」
優樹はしばらく考えるように一寸先の地面を見て歩いていた。
「だんだんと視界が広がってきましたね」
弁慶の声に顔をあげる。
あたりを見れば、確かに先程よりも景色が明るくなっていた。
鬱蒼とした木々たちが影をひそめていく。
「ひゃっ!?」
突然、望美が声を上げた。
それと同時に、ぼてっと、何かが落下した音がした。
優樹と譲も、最後尾にいたために、望美のすぐ目の前に何かが落ちるのが見えていた。
「どうしましたか?」
「なになに〜?」
先頭を歩いていた弁慶と景時が振り返る。
「む、むむむ……虫っ!?」
望美が顔面蒼白で後ろに下がる。
「……じゃあ、ないみたいだよ」
優樹が覗き込むと、葉っぱに埋もれた可愛い毛並みが見えた。
「あ……ほんとだ。リス?」
望美が落ち着きを取り戻したように近づいてくる。
「……落ちちゃったのかな」
おそるおそる望美が触れようとすると、突然それは動き出した。
「きゃっ」
望美が驚いて手を引っ込めると、リスは優樹たちが進んでいた方へと走り出していった。
その姿が見えなくなるまで優樹たちは呆然としたように黙って見つめていた。
「……前にも似たようなことがあったような」
優樹が呟くと、望美がはっとしたように優樹を見てきた。
「もしかしてこれって……」
「これって?」
優樹が首をかしげると、望美は真顔で言ってきた。
「あのリスさん、私たちを案内してくれているのかも」
「…………」
にこっと優樹は微笑んだ。
「そっか」
「あ、今馬鹿にしたでしょ」
「してないよ。…………呆れただけだって」
ぼそっと呟いた最後の一言は、望美にもばっちり聞こえていたようだ。
「もーひどいなー。ちょっと不思議な国みたいで良いなって思っただけだよ」
「それ言うならリスよりもウサギの方がよかったんじゃない?
それに変なとこに案内されて穴に落っこちでもしたら困るよ」
この話は、現代組にしかわからない話だ。
譲は話に参加せずに黙って二人を見ていた。
(……日野先輩って、一見まともなこと言っているように聞こえるけど、たまにちょっとズレた返ししてくるんだよなあ)
そんなことを思われているとは、優樹は露程も知らない。
二人の会話を聞いていた弁慶は、くすくすと笑っていた。
「もしかしたら、望美さんの言う通りかもしれませんよ。僕たちを案内してくれているのかもしれません」