黒蝶はつがいの風にのる

□邪教の輩ー君ヲ恋ウー
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すきま風が灯台の火を揺らす。

吐息混じりの甲高い女の声が聞こえた。


何かの影が壁に映り、揺れている。
大きな口を開けた、毛の長い生き物だ。

まるで心臓の鼓動のように、なんども上下に小刻みに揺れている。


地の底から響いてきているかのような、低い男の声がひたすらに堂の中を満たしている。
一体何を言っているのか。低くくぐもっていてわからない。



じり、と火が音を立てる。



ねっとりとまとわりつくような空気が、ひどく息苦しい。



嫌だ、と思った。ここは嫌だ。


はっ、はっ、はっ、と荒い息が低い声に混ざり聞こえてくる。
ひどく苦しそうである。けれど――どこか悦びが混ざっているようにも思えた。


大きな黒い影は、何度も何度も小刻みに揺れている。
逆光のせいで、その姿を見ることができない。

壁に映っている影よりもずっと小さい。


灯りがひどくまぶしい。
まるで何かの儀式のように、床板に等間隔で置かれている。


ひときわまぶしいのは、その黒い影の奥にある灯台だ。



奥には、祭壇のようなものが置かれている。
その上には本尊が置かれている。

だが、何度も小刻みに揺れる黒い影のせいで見ることが叶わない。


……――どうしてその奥に本尊があるとわかる? なぜ知っている。
だが、あるのだ。その奥に恐ろしい――……。



ああ、嫌だ。見たくない。その先を、見たくない。


お願い、その先を見せないで。



どんどん近づいていく。


近づいた分、黒い影も大きくなっていく。



嫌だ嫌だ、嫌だ。



お願いやめて。



はっ、はっ、はっ、はっ、と荒い息づかいがさらに激しくなっていく。


呪文を唱えている低い声が、耳の奥で反響する。



お願い、やめて。


このままでは、飲み込まれる。



黒い影が、どんどんとせまっていく。その先を――その先の祭壇にあるものは――。



お願いやめて!!!!!!
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