望んだ事はB

□元の世界との繋がり
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「泣いてないけど」

逆に冷静に反論する。
実際に涙は出ていないからだ。

「・・・そうだな」

受話器の向こうの相手も、自分の言ったことが間違いだったと悟ったようだ。

「じゃ、なんで我慢してんだ?」

そう、間違ったのは言い回し。

「確かに泣いてないみたいだけど、それよりひどいぞ。
本とっに、お前は強がりだな!」

本当にの部分を敢えて強調する。
更に追い討ちをかけるのは、

「また、他人の為に強がってんだろ?
もうそのクセやめろって!」

何もかもお見通しのような台詞だった。

「・・・・な」

言い返したくても、言い返せない。
歯を食い縛り、本当に強がっている自分がバレてしまう気がした。

でも、

「巧・・・」

「なんだ?」

声が震えないといいと思った。
そして、絞り出した本音。

「帰りたい」

「・・・お前、どこにいんだよ!」

受話器の向こうで、ガラガラと音が聞こえる。
窓を開けているらしい。

有子!
聞こえていたのは、隣の窓に向かって叫ぶ巧の声。

『そこに私はいない』

『そこに帰りたい』

「有子!どこにいるんだよ!
今から行ってやっから、言えよ!」

直に話すのを諦めたのか、受話器を通して巧が投げ掛けてきた。
先ほどよりも、強い口調だ。

「無理・・帰れないよ」

「何言ってん・・・」

ブチ
ツーツー・・・

最後まで聞かずに、その指は巧との繋がりを切った。
すぐさま、電源まで落とす。

泣くよりもひどい顔をして、

「一人でなんて、帰れないよ」

切れている電話に向かって言ってみた。
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