望んだ事はB

□沈黙の連鎖
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「お前のせいだ」

そう言われた方が楽だった。
殴られた方が痛くなかった。

でも、誰も口にすることが出来ない。

誰が悪い?
どこから間違っていた?

そんな事を口にしても、七瀬は戻らない。
冷たくなって動かなくなった人は、もう二度と目を覚まさない。

だから、今の学園は誰もが閉ざしたままだ。
肯定も否定もしない為に。

息を吹き返した利吉がそうだ。
泣き叫んだとしても、戻らない。
いや、そうしたら七瀬だけでなく、生きている人間が傷付く。
誰が生きて誰が死んだら良かったなんて、誰も答えられない。
彼は学園から姿を消した。

目を覚ましたるるるがそうだ。
何でも知っているはずの彼女が、予想すら出来ない結末を知る。
今の彼女は、どんな言葉もどんな感情も、全てを止めてしまった。

沈黙の連鎖。
どこまで、いつまで続くのか誰にも分からない。


「ありがとう。辛い話をさせてすまなかった」

そう言った昆奈門も、明らかに言葉を選んでいる。

「尊奈門もすぐに目が覚める。
悪いがそのままにしておいてくれ」

伊作が木の根元に寝ていた尊奈門の存在を思い出す。
目をやると、来た時と変わらないポーズで倒れていた。

「・・・あ」

昆奈門へ再び顔を向けると、その姿はなかった。
一瞬の出来事。

しかし、お構いなしに歩き出す伊作。
尊奈門が寝ている前を通っても立ち止まらない。

ただ一言、

「葬儀は明日です」

ピクリと尊奈門の肩が揺れたが、あえて気づかないふりをした。
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