望んだ事はB

□沈黙の連鎖
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「僕が戻ってきた時に見たのは・・・」

そう語る伊作の顔に色が差していないのが分かる。
きっと伊作の頭の中には、今から話すその光景が辛く甦るのだろう。

るるるを薬で眠らせ、再び利吉の元に戻ってきた伊作。
もしかしたら、もう息絶えているかもしれない彼の元に。
それが保健委員長の役目だと、握る拳に力を込める。

最初は自分が何を見ているのか分からなかった。

『余りに綺麗な光景過ぎて』

地面に仰向けに寝ている利吉。
その青ざめた唇に、自分の唇を重ねる
七瀬。

誰もが見とれてしまう程の、切なくて美しい・・・別れの儀式。

「みんなそう思ったんです」

誰一人、止める人などいない。
最期の別れに嫉妬する者などいない。

『ダメだーーーーー!!!』

伊作の叫びは真実を知らない人間には、場違いで幼稚な行動に思えた事だろう。
案の定、その場にいた先生に押さえ込まれた。

『七瀬ちゃん!!』

何度も名前を呼ぶ伊作。
押し寄せる不安に叫ばすにはいられなかった。

そして、七瀬がやっと体を起こした。
ゆっくりと名前を叫び続ける人を見る。

「・・・七瀬ちゃん・・・七瀬!」

伊作を見て、笑った。

「それが最期でした」
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