望んだ事はB

□いない
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「るるるちゃん、着替え持ってきたからね。部屋にあった篭ごとだから」

背中に投げ掛けた言葉は、ただ空を切るだけだった。

「・・・行くね」

クルリと背を向け、歩き出す伊作。
あんな状態のるるるを、普段の伊作だったら一人にはしない。
しかし、それには理由があった。

るるるのいた庭から、少し離れた所まで来ると、ピタリと足を止め、

「気配が駄々もれですよ」

そう言うと、

「そうだろうね」

曲者は姿を現した。

「雑渡さん・・・。どうしたんですか?」

伊作が目を丸くした光景。
気配を消さずに現れた昆奈門、ではなくその肩に担いでいる尊奈門。
ぐったりとしている。

「気を失ってるだけだよ」

そっと木の根元に降ろす。

「・・・」

伊作は黙って見ていた。
昆奈門の言葉を待っている。

「忍術学園に寄ったら、土井半助と闘いだしてね」

「・・・土井先生にやられたんですか?」

懲りないですね、言おうとすると、

「土井半助が防御体勢をとらないから・・・私が止めた」

その言葉に一瞬驚いた素振りを伊作は見せたが、すぐに何かを悟ったのか納得の表情になった。

「忍術学園に行かれたのなら、・・・もう知ってしまったんですね」

伊作の言葉に、

「・・・ああ」

かなり遅れて返事をした。
しかし、続く言葉は早かった。

「君に聞くのは酷だということは分かっている。
しかし、君の口から聞きたい」

伊作と目が合う。
その瞳は揺れている。

伊作と対峙する昆奈門。
その距離は近い。
そして、酷く遠くにも感じられる。

その微妙な距離を、昆奈門の発した言葉によって、重く詰められることとなった。



「何故、七瀬は死んだ」
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