望んだ事はB

□いない
3ページ/4ページ

和尚が言ったように、るるるは寺内にある立派な庭園にいた。
大きな岩に座って、庭を眺めているようだ。
いや、何も見ていないが正しい。

あの出来事から、変わらない。
何も見ようとはしない瞳。
何も聞こうとはしない耳。
そして、何も語ろうとはしない口。

伊作の知っている彼女はここにはいない。
別人のようだ。

『・・・いない』

頭の中で、その言葉がぴくりと反応した。

『そうだ、もういない』

その現実を誰もまともに受け入れることが出来ない。
生徒も教師も、学園の人間全て。
何より、自分が。

「るるるちゃん、あんまり風に当たるのはよくないよ」

びっくりさせないように声をかける。
しかし、るるるは振り返らなかった。

彼女は気配を読むことは出来ない。
だが、聞こえる声には敏感だった。

その彼女が反応をやめた。

『いない』

その姿が余計に現実を突き立てる。

『もう、いない』

『もう、いないんだ』

伊作の寂しげな笑顔の裏で、何かが激しく叫んでいた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ