望んだ事はB
□いない
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和尚が言ったように、るるるは寺内にある立派な庭園にいた。
大きな岩に座って、庭を眺めているようだ。
いや、何も見ていないが正しい。
あの出来事から、変わらない。
何も見ようとはしない瞳。
何も聞こうとはしない耳。
そして、何も語ろうとはしない口。
伊作の知っている彼女はここにはいない。
別人のようだ。
『・・・いない』
頭の中で、その言葉がぴくりと反応した。
『そうだ、もういない』
その現実を誰もまともに受け入れることが出来ない。
生徒も教師も、学園の人間全て。
何より、自分が。
「るるるちゃん、あんまり風に当たるのはよくないよ」
びっくりさせないように声をかける。
しかし、るるるは振り返らなかった。
彼女は気配を読むことは出来ない。
だが、聞こえる声には敏感だった。
その彼女が反応をやめた。
『いない』
その姿が余計に現実を突き立てる。
『もう、いない』
『もう、いないんだ』
伊作の寂しげな笑顔の裏で、何かが激しく叫んでいた。