望んだ事はB
□癒された傷
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七瀬は、不思議と理解し始めてきた。
理屈とかは分からない。
ただ、そうかと思うだけ。
自ら命を断とうとした少年。
現実では命をとりとめてはいるが、心がそこに戻ろうとしなかった。
そこまでして逃げたかった物は何かは分からない。
だけど、彼は気付いた。
自由になったはずなのに、苦しくて仕方ない自分に。
次第に強くなる、呼び掛ける声。
本当は返事をしたい。戻りたい。
幼い心は自分のしてしまった事に後悔を覚えた。
彼は生きている。
なら、ただ目覚めればいい。
運がいいのか、運命なのか。
どちらにしても、彼をここに飛ばしてきた水神は、きっとこうなるように仕向けた。
何故だか、そんな気がする。
自分に関わらせて、尚且ついろんな人を巻き込む羽目になったのは、少々許せない。
「カイトが嫌いって言うのも・・・分からなくもないな、水神め」
七瀬がわざわざ言ったのは、どこかで聞いているだろうその神に。
すると、
「市原先生!帰っちゃうの?」
「山ぶ鬼!待ちなさい!」
子供の声と、それを止める大人の声がした。
その方向へ顔を向ける。
「誰?」
番傘を広げて走ってきた女の子。
その姿は、忍者、いや忍たまのようだ。
「帰っちゃうの?」
雨なのか涙なのか、頬に一筋の雫が落ちた。