望んだ事はB

□癒された傷
3ページ/6ページ

ポツリ、ポツリと空からの涙。
温かい、雨。
次第に大粒に変わる。

この雨で、忍術学園に攻め入った敵の動きが止まればいいのに。
ふとそう思った。

空を見上げた瞬間、

「痛っ!」

七瀬の肩から、鮮血が舞い上がった。

「七瀬!」

「土井先生、来ないで!」

半助の前に制するようにつき出した
七瀬の手。
真っ赤な血がポタポタと伝う。
七瀬には、分かっている。
これが周平の力に依るものだと言うことを。
水の力を通して、雨が矢のように突き刺さったのだ。

もちろん半助にそれは通じない。
いや、通じさせない。
七瀬にも使える水の力。
ただ、それは守りたい時だけの力。

「な、何だ!!!」

八方斎が慌てて木の下に走る。
水は危険だと察知したらしい。

「来るな!
だから、お前になんて、俺の気持ちが分かるか!」

周平が叫ぶ。
怒りを吐き出すかのように、突き刺さる水の矢。
見えない凶器が、七瀬を赤く染める。

七瀬の手はずっと半助に向けられているが、視線のその先は周平がいる。
そして、口が開く。

「ああ、分からないね」

「な・・・」

半助にも、八方斎にも、見ていた者達には理解不能な七瀬達の会話。
しかし、周平の動揺は誰の目から見ても明らかだ。

「うわぁーー!」

頭を抱え、膝を地面に落とした。
大きく震える体。
勢いを増した雨で分かりづらいが、きっと泣いている。

「周平」

その幼い少年の前に、
七瀬はたどり着いた。
頬にも無数の赤い傷が出来ているが、気にしていない。

「泣くな」

彼女も泥と化した地面に膝をつき、目線の高さを合わせた。

「お前にはチャンスが与えられたんだ。
生きろよ」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ