望んだ事はB

□ハートキャッチ
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「だ、誰の声?」

怖かった。
聞こえない、感じる声の存在。
そして、その声が余りに悲しそうだから。

震える周平がるるるを見る。
涙なのか、目の端が光っている。

「あんたにも聞こえるのか?」

やはり彼にも聞こえているようだ。
るるるは更に悟る。

「誰の声か、分かっているのね」

そう言うと、素直に頷いた。
端に貯まっていた涙も、一筋に流れる。

「ずっと俺の名前を呼んでいる。
でも、それには応えられない。
俺には応える資格がない!」

予想外なシリアスな展開。
触れていいのか分からない。
るるるはこう見えても、すこぶる常識と気遣いを兼ね備えた人間なのだ。

「そろそろ、戻るわ」

まるで家にでも帰るような台詞だったが、戻る場所は暗くて湿気気味の牢獄。
きり丸が待っている。

周平はまだ顔を下に向けていた。
そっと立ち上がる。

襖に手をかけ開けようとしたが、寸前で止まり再び周平の方を向いた。

「呼ばれるのは・・・必要としてるからなんじゃない?」

それだけ言って部屋を後にする。
その言葉がどう届いたかは、わからない。
届いてないかもしれない。

あの声を受け入れられないのなら、自分の声なんて耳鳴り以下だろう。
だから、これ以上は言う気になれなかった。

悲しい声。
だけど、違う。
何だろう。

その理由を知っているのは、市原周平だけ。

部屋を出ると、魔界之小路先生が待っていた。
口許が優しく笑った。
きっと会話を聞いていたのだろう。
彼とてプロ忍だ。

「その袴の柄じゃなかったら、メッチャ格好いいんですけどね」

「ハード系のワイルドな柄を注文したんです。でも・・・」

「ハート柄が届いちゃったんですね」
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