望んだ事はB

□ぬけがけ
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「本当にお前は・・・」

その言葉と同時に、後ろから伸びた腕に包み込まれた。
力強い両手に震えていた肩も止まった。

温かい。

「一人で戦うな。
ちゃんと周りの声を聞け。
授業で教えたはずたぞ!」

「土井先生・・・」

そう、確かに教わっていた。
笑い声の絶えない教室。
楽しい仲間。
そして、いつだって優しく見守ってくれる先生。

「七瀬、よく聞け」

七瀬の肩に半助の顎がのるくらいに顔が近い。
耳にその唇が触れそうな距離だ。
そして、

「ずっといてほしい。
帰らないでくれ」

更に強く抱き締めながら、半助はあの時に言えなかった想いを伝えた。

「先生なら分かるって言ったよな。
でも、今の気持ちは一人の人間として言ってる。
だから、全然分からないし、分かりたくない」

そう言うと、七瀬の頬に軽く口付けをした。
衝動が起こした、自身でさえ予期せぬ出来事。

「・・・あ」

まずい。
気付いた時にはもう遅い。

腕の中にいる七瀬よりも気になる存在。
目の前の生徒達。
そっと見渡してみると、

「・・・はは」

流石は忍者のたまご。
既に武装準備は整っていた。

「土井先生でも、許しませんよ」

仙蔵が徐に宝禄火矢に点火した。

「ま、待て!つい、お前達がいるのを忘れてしまって・・・」

「余計悪い!」

叫び声が響く。
逃げる半助と追う上級生。
そして、取り残された七瀬。

「・・・・」

顔を赤くしたまま、固まっている。
どうしたらいいのだろうか。

「どうもしなくていいんじゃないか?」

と、いきなり心を読むのは、

「山田先生」

隣で苦笑していた。

「それが半助の気持ちなだけさ。
別に受けとめる必要はない。
ただ、耳を傾けてやればいい」

上級生の想いだって同じだ。
聞かないうちから拒否していたら、お互いが悲しいだけ。

頭をポンと叩きそう言った。
最後につけたしたのは、

「うちのお坊っちゃまも忘れないでくれよ」

親心だ。
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